よみがえれ有明海/座談会 諌早干拓を問うA

大きかった諌早干潟の浄化力/まず工事やめ再生の可能性残せ

しんぶん赤旗九州・沖縄面2001年3月23日

速い潮の流れ二つの理由が

◎東幹夫・長崎大学教育学部教授
 有明海の環境悪化について、潮の流れが大きな影響を与えているという指摘があります。

 有明海は満潮と干潮の潮位の差(潮差)が6メートル余りもあって、速い流れがあった。有明海は瀬戸内海よりも窒素もリンの濃度が高く、いつ赤潮が発生してもおかしくないのに、これまで赤潮被害も漁業被害もなかった。それは、有明海特有の潮の流れの速さのためだと説明されてきました。

 潮の満ち干は月の引力によっておこるわけですが、潮差は湾の形と密接な関係がある。有明海は、月の引力によっておこる「潮汐振動」と、湾の面積と形状によって決まる「固有振動」が共鳴する「共振系内湾」だから干満差が大きい、というのです。

 ところがここ20年くらいの間に開発がすすみ、熊本新港や筑後大堰(ぜき)の完成による変化、雲仙普賢岳の土石流の影響、三池炭鉱の陥没もある。そういう中で有明海は疲弊してきたが、決定的影響を与えたのが諌早湾干拓です。閉め切りによって形状が変化したことで固有振動が大きく変わり、潮汐振動と共鳴しなくなり、流れが緩やかになったというわけです。

 「有明海の再生」という県課題からみれば、排水門の開放は、第一歩にすぎないのではないか。抜本的に潮の流れを回復するためには、7キロメートルの潮受け堤防全体がじゃまなわけで、わずか250メートルの幅の水門を開ける程度では、有明海を本当に再生させることにつながらないのではないか。多少先走った提起ですが、抜本的には潮受け堤防そのものをなくし、共振系内湾をこわす障害を取り除くことによって、逆に早く回復する可能性も開けてくると思います。

仕事にならなかった場所も

◎松本正明・有明町漁業組合組合長
 全体として潮の流れがなくなってきましたね。以前は、「旧暦の19日の潮」からカニの刺し網(源式)を入れても、工事の沖台の平たんなところに網を入れれば、網が巻かれて操業ができないような状態がありました。だから水門が閉まる前はあまり潮の流れのないところにいって操業していました。閉まって以降は、以前は網が巻かれて仕事にならなかった場所でも、「19日の潮」がやってきても仕事がぴしゃっとできるような潮の流れの状況です。潮の流れがなくなってきたというのは、実感でわかります。

◎小沢和秋衆院議員
 潮の流れを回復することが、有明海の再生にとってひじょうに重要だというお話はよくわかりました。水門を開けて中に潮を入れ、海水が自由に出入りするようにすることが、全体の再生にとって決定的な意味を持つことをはっきりさせることが大事ですね。

内部堤防工事やめさせないと

◎東幹夫・長崎大学教育学部教授
 その意味は二つありまして、一つは、潮受け堤防ができたことによって、干潟の浄化機能が妨げられた、「腎臓(じんぞう)」が使えなくなってしまったこと。同時に、潮受け堤防ができたことによって、潮の流れが低下した。その両方が重なっている。

 干潟の浄化能力はひじょうに重要な意味を持つんですが、諌早干潟は有明海の2%の面積にすぎませんが、有明海の干潟全体の14%もあります。そこを失ったということは、浄化機能の面でひじょうに問題があるわけで、それをよみがえらせようという意味では、どうしても潮を中に入れないといけないわけです。

 いま、内部堤防の工事がおこなわれ、干陸地化、農地づくりが進んでいます。あれをやめさせないといけない。あれができてしまうと、諌早の中の干潟がよみがえってこないわけですよ。

「死んで」から原因わかっても

◎宮入興一・長崎大学経済学部教授
 農水省などは「調査して原因ありとわかったら、水門を開けて」という話をずっとしていますが、有明海は「瀕死(ひんし)の重症」に近いわけです。死んでしまってからでは、いくら原因が分かっても、そのときでは遅いんです。だから、まず工事をやめて、再生の可能性を残しておくことが重要だと思います。これがポイントの一つ。二つ目は、いまの複式方式で干拓をすすめていったら、内部堤防の調整池は、どんどん上流からの土砂でうまってしまうわけです。潮受け堤防というのは、いわば河口につくったダムなんです。それがどんどん上からの土砂で埋まっているんです。そうすると、もし「防災」をいうならば、潮受け堤防の外側にまた同じようなものをつくらなければならなくなる。その悪循環を次々に繰り返し、有明海をやがて埋めつくす愚を繰り返すしかなくなります。

◎小沢和秋衆院議員
 漁民の方たちが工事の中止を求めて座り込みをして、とうとう一時中断することになりました。事態の解決に向けての大きな一歩を踏み出したといえると思います。(つづく)


出席者(敬称略)
 東幹夫・長崎大学教育学部教授(動物生態学)
 小沢和秋・日本共産党衆院議員(九州・沖縄ブロック選出)
 松本正明・有明町漁業協同組合組合長
 宮入輿一・長崎大学経済学部教授(財政学)

■ 座談会 諌早干拓を問う@水門閉め切りが悪化にとどめ/生物数も水揚げも大激減

■ 座談会 諌早干拓を問うB「宝の海」へ計画の転換が大事/環境再生と防災の両立は可能

座談会 諌早干拓を問うC漁業守れ、自然守れ声あげ始めた人々/豊かな海再生は次世代への責任

ニュースへ 見解へ 国会へ
連載@ 連載A 連載B 連載C