よみがえれ有明海/座談会 諌早干拓を問う@

水門閉め切りが悪化にとどめ/生物数も水揚げも大激減

しんぶん赤旗九州・沖縄面2001年3月22日


 ノリの大不作をきっかけに改めて諌早湾干拓事業が問い直されています。4月14日には潮受け堤防の排水門閉め切りから丸4年を迎えます。各界の方に集まっていただき、「宝の海」といわれた有明海はいまどうなっているのか、異変の原因、宝の海をよみがえらせる展望などについて、話し合いました。
 出席は、漁民を代表して松本正明・長崎県有明町漁協組合長、有明海の底生動物を調査・研究、農水省の第三者委員会のメンバーでもある東幹夫・長崎大学教育学部教授(動物生態学)、諌早干拓の公共性を追及してきた宮入興一・長崎大学経済学部教授(財政学)、そして日本共産党の小沢和秋衆院議員です。


出漁しても油代もでない

◎松本正明・有明町漁業協同組合組合長
 いま考えれば、諌早湾の潮受け堤防が閉め切られた1997年までは右肩上がりだったが、そこを境にして水揚げが激減しひどい状態になりました。アカグチ(ニベグチ)は、97年から水揚げの報告がありません。カニは98年春までは水揚げがありましたが、その夏からは死んだカニが刺し網に掛かりおかしいと思いました。2000年には半減、それからは漁に行っても油代も出ず、4〜5匹になった。いまは三日に一回の出漁で、経費もでない状況です。

 天候や熊本新港、筑後川大堰(ぜき)の問題もあると思いますが、そういうものは閉め切り前のことで、97年まではまだ水揚げはありました。97年に、排水門が閉まった影響がとどめとなったと思います。漁業者の百人が百人、そう考えています。

予想外に早く変化おこった

◎東幹夫・長崎大学教育学部教授
 有明海全域を、閉め切り直後の97年6月を基点に有明海全域にわたって底生動物の調査をしました。底生動物はすぐには動けませんから、閉め切り直後は、閉め切り前の状況をかなり反映しています。これがその後のデータを見るときの基準になります。

 1平方メートルあたりの個体数グラフ(グラフ上)にしてみました。同じ6月の調査結果を比べると、99年44%、2000年30%と年々落ち込んでいます。98年11月、2000年11月の激減は、その年の夏にシャントネラ・アンティカというそれまでなかった有害赤潮が小長井町沖に大発生して、魚が大量に死んだ年の11月です。赤潮の影響がはっきりでていますし、同時に、底生動物の個体数が年々落ち込み、閉め切りの影響が顕在化していることをうかがわせます。

 調整池の方は、閉め切り後4ヶ月の調査で、底生動物は全滅していることが明らかになりました。干潟に累々とバイガイの死がいが転がっている写真が有名になりましたが、共同研究者の調べで、ハイガイの密度は1平方メートルあたり平均30個体、諌早湾全体で1億個いたことがわかりました。このハイガイがどれだけの水をろ過していたかというと、有明海の海水280立方メートルの実に1.5%です。干潟にいっしょにいたマガキは1平方メートルあたりなんと数千個体です。その浄化能力はものすごく高い。ほかにもゴカイやエビ、カニなどいろいろな底生動物がいたわけで、いかに干潟が高い浄化能力をもっていたかがわかると思います。

 諌早湾は稚魚などが育つ有明海の「子宮」といわれてきました。私は、機能の高い「腎臓(じんぞう)」の役割も果たしていたといっているのです。山下弘文氏(故人)が「ギロチン」と言ったようなやり方で、いっぺんに「腎臓」を摘出してしまったわけです。予想外に早く有明海の変化が起こってきたと思います。

干拓事業が決定的要因に

◎小沢和秋衆院議員
 昨年、私が当選後まもなく佐賀県大浦の漁民のみなさんから「今有明海に異変が起こっている」という話を持ち込まれて、早速、臨時国会の時に、有明海で魚が激減している、それは諌早湾干拓事業と関係があるのではないかという質問主意書を二度だしました。ところが、二度とも「さしたる漁獲量の変化はない」という答弁書がきたんです。

 そこで、有明海の漁業生産量と生産額を全部まとめた数字を出させて、このグラフ(グラフ下)にしました。私はこれをパネルにして2月28日の衆院予算委員会質問で使ったのですが、一見してわかる通り89年の堤防着工までは上り調子で最高8万7千トン。その後はずっと落ち続けて、閉めきったらいよいよ落ちて、2万8千トンまで下がっています。少なくとも潮受け堤防着工、排水門の閉め切りなど節目節目で、干拓事業と漁獲との関係がはっきり表れています。原因は、筑後川大堰、熊本新港とか、いくつか指摘されていますが、諌早湾干拓事業が決定的要因になっているのではないかと思います。

社会的損失は非常に大きい

◎宮入輿一・長崎大学経済学部教授
 農水省の土地改良法の事業は、費用対効果を分析することが義務づけられています。農水省は、効果の方は最大限に大きくして、費用の方は事業費だけにして限りなく小さくするというごまかしをしました。それにもかかわらず諌早湾干拓事業の費用対効果は、当初計画で1.03、変更計画で1.01です。簡単にいえば、最低点が100点の試験なのに、当初は103点、変更計画では101点です。

 費用に社会的費用として干潟の浄化能力の損失を考慮するとどうなるか。かつて愛知県などが三河湾の一色干潟で、干潟の浄化機能調査をしたことがあります。その結果、一色干潟は下水処理能力に換算すれば10万人分でした。諌早干潟の面積(約3千ヘクタール)は一色干潟(約千ヘクタール)の約3倍ですから、その下水処理能力は単純計算で約30万人分。下水処理施設建設費用が2600億円、管理運営費に毎年17億円かかる程度の浄化能力です。この分を費用に加えると、干拓事業の事業費は2490億円ですから、費用は倍以上になって、100点の最低点に対して50点になってしまいます。

 もはや土地改良法違反と言ってよい理不尽な事業だということをふまえることが大事だと思います。


出席者(敬称略)
 東幹夫・長崎大学教育学部教授(動物生態学)
 小沢和秋・日本共産党衆院議員(九州・沖縄ブロック選出)
 松本正明・有明町漁業協同組合組合長
 宮入輿一・長崎大学経済学部教授(財政学)

■ 座談会 諌早干拓を問うA大きかった諌早干潟の浄化力/まず工事やめ再生の可能性残せ

■ 座談会 諌早干拓を問うB「宝の海」へ計画の転換が大事/環境再生と防災の両立は可能

座談会 諌早干拓を問うC漁業守れ、自然守れ声あげ始めた人々/豊かな海再生は次世代への責任

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