2007年4月7日(土)「しんぶん赤旗

諫早湾閉め切り10年 第1部

沿岸漁民の叫び(2)

調整池という汚染源


写真

(写真)諫早湾を分断した潮受け堤防。右側が調整池で、海側との色の違いがわかる

 有明海は、九州のふところに抱かれるように南北に広がっています。諫早湾はその中央部に位置する支湾です。干拓事業はこの湾の三分の一を堤防で閉め切り、農業用に海水を淡水化した「調整池」と「干拓農地」を造成するものです。事業面積は三千五百五十ヘクタール。東京の山手線内側の面積(約五千ヘクタール)の三分の二の広さの干潟・浅海域が一気につぶされたことになります。

水門開け

 「干拓事業の全体が見えるところに行きたい」。地元の人に聞くと「それなら白木峰高原がいい」といいます。諫早湾岸の北側はJR長崎本線と国道が湾口部まで並行しています。その国道を途中でそれて山側の坂をしばらく登ると森林を切り開いた白木峰高原に出ます。

 「なるほどよく見えますね」。取材に同行した山口由則さん(62)=福岡県在住=が声を上げました。

 眼下に広がる調整池と干拓地。それを海から隔てる七キロの堤防。それが南北に真っすぐ伸びて島原半島にぶつかっています。堤防の付け根の近くに南北二つの排水門が見えます。諫早湾が閉め切られて以来、漁民は、排水門の常時開門を要望しつづけてきました。「排水門を常時開門せよ。それができないというなら一滴も排水するな」と。

赤潮状態

 開門を求めるのは二つの理由があります。一つは閉め切りで潮の流れが弱まり、漁業環境が悪化したためで、流れの回復措置が必要とされるからです。もう一つの問題は調整池の汚濁排水です。

 調整池は、水面の高さを標高マイナス一メートルに保つため、川から流れ込む水や雨水を排水門から干潮時に放流しています。一日に東京ドーム一杯分(百二十万トン)くらいの放流はたびたびあり、雨しだいでその十倍、二十倍にもなります。

 熊本県立大学の堤裕昭教授は「調整池は植物プランクトンが繁殖し、絶えず赤潮状態」と指摘しています。淡水のプランクトンは海に排出されると死滅、沈殿します。流れの弱まりは、諫早湾海底のヘドロ化を進行させ、赤潮や酸欠による魚介類の被害が頻発するようになりました。

 諫早湾は、「調整池」というやっかいな汚染源を閉め切り以来、抱え込んだことになります。
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