2007年4月6日(金)「しんぶん赤旗」

諫早湾閉め切り10年 第1部

沿岸漁民の叫び(1)

「ギロチン」と甘い汁



 長崎図県の諫早湾が干拓事業で閉め切られてから十四日で十年。一九九七年のこの日、事業主体の農水省は鋼板二百九十三枚を連続的に落として、最後の開口部を閉め切りました。

 鋼板が水しぶきをあげて次々落下する光景は多くの人の記憶に残っています。

 関係者が「ギロチン」と呼ぶ、この閉め切りが環境や地域にどんな影響を与えてきたのか。現地を訪ねました。
(ジャーナリスト松橋隆司)



写真

(写真)鋼板が落下する様は「ギロチン」と呼ばれました(九州農政局企画のビデオ「潮受け堤防を築く」から)

 干拓事業は一九八九年、諫早湾を分断する潮受け堤防工事から始まりました。干拓工事は干潟を干し上げて農地を造り、農業用水の確保に淡水の調整池を造るのが目的。このため海水の浸入を止める潮受け堤防が必要になります。

 ところが諫早湾の干潟域はガタといわれるきめの細かい泥が二十メートルも厚く堆積した軟弱地盤。重たいものはずぶずぶと沈みます。

5万本も

 そこへ全長七キロの潮受け堤防と南北二つの巨大な水門を設置する計画です。軟弱地盤から水分を抜き取って固めるために深さ二十二メートル、直径一・六メートルの鋼管(サンドコンパクションパイル)を五万本も打ち込む必要がありました。

 工事の模様を伝える九州農政局企画のビデオをみると、いかに大きな自然改変がおこなわれたかがわかります。

 干拓事業は総額約二千五百億円。このうち約半分の千二百億円が潮受け堤防と水門工事に使われました。

 世間が驚いたのは、この干拓工事をめぐる政・官・業の癒着のひどさでした。その実態を明るみに出したのは日本共産党の小沢和秋衆院議員(当時)の国会質問でした。二〇〇二年一月、予算委員会で「潮受け堤防工事を受注したゼネコンへ農水省官僚が大量に天下りしている」と指摘。その時点で確認されただけで地方農政局の幹部三十三人が受注企業の専務や常務におさまっていたことを明らかにしました。

巨額献金

 受注企業から自民党や地元国会議員への献金の多さも異常なものでした。

 小沢氏は同予算委員会で「最近六年間で、三億円余の多額の献金が受注企業から自民党長崎県連に渡っている」と追及。当時の武部勤農水大臣でさえ「そういったものを受けるのは、私は適切でないと思う」と答弁しています。

 小沢事務所のその後の調べによると、干拓受注企業から自民党長崎県連や同熊本県連と久間章生氏(現防衛大臣)、松岡利勝氏(現農水大臣)などの自民党議員への献金総額は八九年の着工後十六年間で約十一億円にもなります。

 小沢氏が重視してきたもう一つは契約の問題。「潮受け堤防工事の受注件数のうち76%が随意契約で、落札率の平均は99・3%だった。癒着によって公正な競争がゆがめられている」と指摘してきました。

 最近、国交省についで農水省発注分でも水門工事で官製談合をしていた疑惑が報道され、松岡農水相は調査を約束しました。

 干拓事業は、巨大なツケを残したまま来年三月までに終わろうとしています。巨大公共事業に群がり、甘い汁を吸ったものの陰で、漁民の生活は年々悪化しています。
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