2007年4月13日(金)「しんぶん赤旗」

諫早湾閉め切り10年 第1部

沿岸漁民の叫び(8)

後始末の大きな負担


写真

(写真)諫早湾干拓と同様の方式で児島湾を分断してつくられた児島湖の排水門

 今、一つの政府答弁書が波紋を広げています。

 日本共産党の赤嶺政賢衆院議員の質問主意書に対するものです。主意書は、今年度で事業が終了した後の調整池の水質改善対策をどこが責任を持つのかと回答を求めていたものです。

責任どこ

 「国として現時点では、工事完了後の水質保全対策については、予定していない」。国が初めて明らかにした回答です。つまり、調整池の水質保全対策は、関係自治体の責任になるという話で、諫早市民や長崎県民に水質対策の負担がかぶさってくることになります。

 調整池の水質は、諫早湾を閉め切って淡水化したことで急激に悪化しました。

 海洋化学の専門家・佐々木克之・元中央水産研究所室長が農水省のデータを調べたところ、閉め切り後の有機物の汚濁量、化学的酸素要求量(COD)は閉め切り前の約二倍、チッソ、リンはともに約三・五倍にはね上がっていました。

 調整池の水質改善には、これまで約四百億円がつぎ込まれ、今後さらに五百六十億円が必要とされています。

 閉め切り以降の十年間、水質は改善されていません。CODの環境保全目標値は一リットル中五ミリグラムなのに対し、ほぼ八ミリグラムで推移。目標値に遠く及ばないのが現状です。

 その理由について農水省は、「関係自治体の流入河川の生活排水対策が完了していないからだ」と説明してきました。

 しかし、生活排水対策が進むにつれ、河川の水質が改善されてきているのに調整池の水質は改善されないままです。

開門こそ

 農水省はその原因について、「調整池の浅いところで生じる風による底泥の巻き上がりによる」と弁明。その巻き上げ対策として調整池中央の海底に高さ二メートル、全長五キロの新たな堤を造る「潜堤」工事を進めてきました。

 佐々木さんは「CODの改善が進まないのは、調整池が慢性的な赤潮状態になっているのが原因。巻き上げが減れば、透明度がよくなり、植物プランクトンは逆に繁殖しやすくなるのでは」と効果を疑問視しています。

 調整池は堤防で閉鎖されたため、流れが滞り、植物プランクトンが繁殖しやすい構造的な問題を抱えています。

 調整池と同様の構造をもつ岡山県の児島湖は二十年間五期にわたる保全事業に五千五百億円をかけながら、基準値達成のめどもつかないのが現状です。

 佐々木さんは、調整池へ海水を導入した短期開門調査(二〇〇二年実施)で水質が改善された例をあげ、「開門して海水を導入するのが経済的負担も少なく、有明海の再生にもつながる抜本的な対策だ」と強調しています。

 農水省が開門することを拒み続けるなら漁業を衰退させるだけでなく、地元の市民や県民の負担が増大、長期化すると心配されています。
(ジャーナリスト 松橋隆司)(第1部おわり)
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