「しんぶん赤旗」2024/9/11

差別せず被爆者認めて
長崎「被爆体験者」訴訟 県・市に控訴断念 原告迫る

 国が指定した被爆地域外にいたため被爆者と認められない長崎「被爆体験者」が、長崎県と市を相手に被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を求めていた裁判の判決を受け、原告らは10日、長崎市役所を訪れ、県と市に対し、被爆者と認めた15人については控訴せず、認められなかった29人について差別せず被爆者と認めるよう求めました。

 原告らは要請書を手渡し、控訴断念とともに、政治決断によるすべての被爆体験者の救済を求めました。

 岩永千代子原告団長(88)は、「県も市も控訴しないと信じている。放射性微粒子が雨にあって、灰にはないということは誰が聞いても納得がいかない。広島は爆心地から40キロまで救済されています。疑わしきは救済してほしい。放射線による健康被害は12キロ圏内ではない。12キロに限らずに救済するべきです」と語りました。

 山内武原告団長は、「国に控訴するなと要請してほしい。裁判にかかわった人だけでなく、12キロ圏内の被爆体験者全員を救済してほしい」と訴えました。

  市の担当者は、議会が決議と意見書を採択し、議長が鈴木史朗市長とともに上京し、裁判の状況を報告することにしていると語りました。

 県の担当者は、市と足並みをそろえ上京するよう調整していると回答しました。


手帳交付速やかに 市議会が全会一致決議

 長崎の被爆体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を受け、長崎市議会は9日、「被爆体験者の一刻も早い救済を求める」決議案と意見書を全会一致で可決しました。

 決議は、2021年7月の「黒い雨」訴訟の広島高裁判決が黒い雨地域にいた人を「放射線の影響を受ける事情の下にあった」として被爆者と認め、広島では爆心地から半径約30キロまでの地域にいた人たちに被爆者健康手帳が交付されたのに対し、半径12キロ以内で被爆した長崎の被爆体験者は、同様の状況にあったにもかかわらず除外されたと指摘。

 被爆者は高齢化し、一刻も早い救済が求められているとして、県・市、訴訟参加人である国に対し、控訴をせず、判決を受け入れ、長崎の被爆体験者を被爆者と認定し、速やかに被爆者健康手帳を交付することを強く求めています。

 

被爆体験者分断 地裁判決に抗議
県保険医協会

 長崎県保険医協会(本田孝也会長)は、「被爆体験者」訴訟で原告44人中15人のみを被爆者と認めるという判決を受け10日、「被爆体験者を分断する長崎地裁判決に抗議し、『被爆体験者』問題の一日も早い合理的解決を求める」との抗議声明を発表しました。

 判決が引用したのは長崎県が設置した「長崎の黒い雨等に関する専門家会議報告書」ですが、同報告書では判決で被爆地域と認められた旧矢上、旧古賀、旧戸石だけでなく、「被爆未指定地域全域で黒い雨が降ったと認められる」と結論付けていると指摘。全域に雨が降り、残留放射線が検出されているのは県保険医協会の「黒い雨デジタルマップ」でも明らかだとしています。

 「被爆体験者」の平均年齢は85歳を超えており、国、長崎県、長崎市は勝訴原告を控訴せず、一日も早い合理的解決を求めています。

 また、同日、本田孝也会長をはじめ、広島の「黒い雨」訴訟と長崎「被爆体験者」訴訟の関係者の呼びかけで「被爆体験者訴訟の勝訴原告を控訴せず、敗訴原告を含め全ての被爆体験者を救済するよう求める」オンライン署名を開始しました。

全員救済に踏み出せ

 国が指定する被爆地域外にいた人たち、長崎「被爆体験者」が、被爆者と認めるよう求めた裁判で長崎地裁は9日、長崎県、市に対し、原告44人のうち15人に被爆者健康手帳の交付を命じました。 

 争点は、「被爆体験者」が被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するかどうか。「被爆体験者」は、放射性降下物などによる健康被害が否定できないとして、被爆者と認めるよう求めてきました。 

 しかし、長崎地裁は、2021年の「黒い雨」広島高裁判決を受けて国が示した▽「黒い雨」にあったこと▽11種類の疾病を要件とする「新基準」―のうち「黒い雨」だけを重視して判断。被爆地域外の一部地域では「黒い雨」が降った事実が認められるなどとして15人を被爆者と認めました。一方で、他の地域の29人については「放射性降下物が降下した蓋然(がいぜん)性を認められる証拠はない」と切り捨てました。

  しかし、長崎における被爆地域は東西約7キロ、南北約12キロ圏内の旧長崎市と一部隣接する地域に限られています。12キロ圏外にあっても旧長崎市であることから被爆者健康手帳が交付されている人もいます。鈴木史朗長崎市長は「国が指定した被爆地域はいびつな形となっており、不公平感につながっている」と指摘しています。

 しかも、放射性降下物は「黒い雨」に限りません。放射性微粒子を帯びた「黒い雨」、灰やチリ、それらを含む水や作物を摂取したことにより、健康被害を生じた人がいるのです。そのため原告からは「内部被ばくを認めない不当な判決だ。広島は全員被爆者と認められ爆心地から40キロ離れた地域の人も認められるのに。分断を持ち込むのは残念だ」との声が上がりました。

 21年の「黒い雨」広島高裁判決は、「原爆の放射能により健康被害が生じることを否定できない」ならば被爆者と認める判断をし、被害をわい小化する国の姿勢を断罪。被害者を幅広く救済することを求めました。しかし、国は長崎を切り離し、新たな分断を持ち込みました。

 核兵器が人類に及ぼす影響の深刻さを認め、広く救済することは、世界に核兵器の非人道性を示し、二度と使わせてはならないことを示すことになります。今こそ国は、上告を断念した広島高裁判決に従い、広島の原告と「同じような事情の方については、早急に救済を検討したい」との約束を実行し、全ての原爆被害者救済に足を踏み出すべきです。(加來恵子)