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「しんぶん赤旗」2024/11/6 |
「被爆体験者」医療費支給へ 厚労省が要綱示す |
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長崎で被爆したにもかかわらず、国が指定する被爆地域外にいたために被爆者と認められない「被爆体験者」への「支援事業」に代わる新事業の要綱を厚生労働省がこのほど示しました。国が定める11疾病のいずれかに罹患(りかん)していることを要件にしながら、被爆者とは認めず、法外で医療費のみを支給するというもので、新たな差別を持ち込むものです。対象は原爆投下時の胎児も含まれます。 新事業では「被爆体験による精神的要因に基づく精神疾患」の従来の要件はなくなり、7種類のがんに対しての医療費支給は、すべてのがんへと対象が拡大されます。「被爆体験者事業」は廃止され、「被爆体験者」が新事業を受けると「医療受給者証所持者」となります。 この要綱は12月1日から適用し、「被爆体験者事業」を廃止するとしながら、当面の間、県市は「被爆体験者」事業を行うとしています。 9月に岸田文雄首相(当時)が現行制度を見直し、被爆者と同等の医療費助成を行うと発表したものを受け、示されたものです。 新たな差別 矛盾あらわ 被爆地域の是正運動におされ国は、長崎では1974年と76年に被爆指定地域に隣接する一部区域を「健康診断特例区域」と設定し、被爆者援護法の支援の対象となる第一種健康診断受診者証を交付。年2回の健康診断を行い、11疾病のいずれかに罹患している場合は被爆者と認め、被爆者健康手帳を交付してきました。 2002年に導入し、第二種健康診断受診者証が交付された「被爆体験者」も第一種健康診断受診者証と同じ「みなし被爆者」と規定。しかし要綱は、同じ11疾病を要件としながら、法外で医療費を支給し、被爆者とは認めないというのです。 しかも「予算の範囲内で医療費を支給する」としており、予算がなくなれば打ち切られる可能性があります。 「黒い雨」訴訟・広島高裁判決では、被爆者援護法1条3号「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の解釈を「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定できない事情の下に置かれていた者」としており、被爆者の定義に11疾病の要件もなければ、「黒い雨」の規定も、地域の指定もありません。病気を発症していなくても被爆者と認めるとしています。 原爆被害にあいながら、国が定める被爆地域外だからといって、被爆者と認めず、被爆者援護法を適用せず、「被爆者と同等の医療費助成」のみで「救済」ポーズをとり、新たな分断を持ち込むことは許されません。 国が新たに示した要綱は、なぜ11疾病に罹患していれば医療費を支給するのかの説明がなく、被爆者と「被爆体験者」の違いがないことを自らが認めているようにも見えます。 被爆80年を前に日本政府は、原爆被害を矮小(わいしょう)化するために、被爆者と認めないという態度を改め、全ての原爆被害者を被爆者と認め、救済するべきです。(加來恵子) |
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