「しんぶん赤旗」2022/6/1

主張 性暴力訴訟の判決 尊厳と人権が守られる社会へ

 長崎市の幹部から取材中に性的暴行を受け、さらに同市の誤った対応で二次被害にさらされた女性記者が損害賠償と謝罪を求めた訴訟で、長崎地裁は30日、市に賠償を命じる原告勝訴の判決を言い渡しました。判決は、性暴力は幹部の職務に関連したものだったと述べました。女性に過失はなかったことも明確にしました。二次被害を防止する義務を怠った市の責任も認定しました。深く傷つき健康を壊し、苦しみ抜いた性暴力被害者に寄り添った判断です。理不尽な加害行為を許さず、女性の尊厳と人権を守る取り組みをさらに進める機会にすることが必要です。

●職務との関係性を認める
 女性記者は2007年、被害に遭いました。当時の市原爆被爆対策部長(故人)が長崎平和式典に関し取材中だった女性を情報提供するふりをして深夜呼び出し、性的暴行をはたらきました。女性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、入院や休職を繰り返し、いまも記者として復職できていません。
 判決は、性暴力は部長による違法行為であり、職権乱用で女性の「性的自由を侵害」したとしました。また、取材に協力するかのような態度を示し、拒否し難い立場にある記者との関係性に乗じ性暴力に及んだと指摘しました。
 市は女性に落ち度を問う主張をしましたが、判決は、記者は繰り返し拒否していたことなどを挙げ、それを退けました。また、取材活動が深夜に及ぶことはありうるとし、部長の加害行為と職務関連性は否定できないとしました。
 情報を得るのが仕事の記者が公的機関などからコントロールされやすい立場にあると判決が認めたことは、報道に携わる女性の人権と尊厳を守る上でも重要です。
 他の市幹部が週刊誌に虚偽を話し、それが流布されました。報道などによって女性は症状を悪化させました。判決は、性的被害を受けたものが誤った情報などで、さらに精神的苦痛を受け、状況によって被害が拡大するおそれがあるのは周知の事実とし、市は「二次被害の発生を予見し得る具体的な事情を認識したときには、これを防止すべく市の関係職員に指導注意するなどの対応をとるべき注意義務を負っていた」としました。組織として二次被害防止に責任を持つことに踏み込んだことは注目されます。
 女性は09年、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てました。日弁連は14年、人権侵害と二次被害を認定し、市に是正を勧告しました。しかし、市は勧告に応じず、女性は19年に市を提訴しました。発生から15年、性暴力被害者に向き合わず、二次被害を引き起こし、長期にわたって女性を苦しめた市の責任が厳しく問われます。判決を受け、謝罪すべきです。

●声を上げて現実変えよう
 18年の財務省次官による女性記者へのセクハラ事件を契機に、記者だけでなく多くの女性たちが声を上げ、行政機関や警察、政界などで横行するセクハラや性暴力の根絶を求める訴えが広がりました。一方、細田博之衆院議長の女性記者へのセクハラ疑惑が『週刊文春』で報じられ、国会で問題になるなど実態は深刻です。
 日本の政治と社会に根深く存在する、女性の尊厳と人権をないがしろにする現状をただすために、力を合わせましょう。