「しんぶん赤旗」2022/5/30

長崎市性暴力裁判 きょう判決
“被害者に責任”許されぬ

 2007年、長崎市の原爆被爆対策部長(故人)から取材中に性的暴行を受けた上、虚偽のうわさを流布される二次被害を受けたとして、報道機関の女性記者が長崎市(田上富久市長)に約7400万円の損害賠償などを求めている訴訟の判決が30日、長崎地裁であります。裁判で長崎市は請求棄却を求める一方、女性の「過失」を主張。これに対し原告側は、女性差別の「強姦(ごうかん)神話」に基づく主張だと批判しています。
 訴状などによると、同年7月、長崎平和式典に関して取材中だった女性記者を同部長が職務上の地位にもとづき情報提供するふりをして呼び出し、暴力を用いて性的暴行をふるいました。事件後、女性が電話で抗議すると同部長は、「(『やめてください』と何度も抵抗する声が)聞こえていた。だけどできなかった」と合意のない性暴力を認めました。ところが部長は市長らに「男女の関係」と虚偽の情報を吹聴し、責任を女性に転嫁しました。部長は市の調査開始後の11月、自死しました。

 ●深刻な二次被害
 市の幹部職員らは同様の虚偽のうわさを庁内で流布し週刊誌に情報提供。その結果、虚偽の情報が週刊誌やネットでばらまかれ、女性記者は深刻な二次被害にさらされました。
 市は部長の職権乱用による性暴力の隠蔽(いんぺい)を意図して虚偽の風説を放置し、二次被害を回避する措置を講じませんでした。
 女性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され入院や休職を繰り返し、いまも復職できていません。女性は09年、日本弁護士連合会に人権救済を申し立て。日弁連は14年、人権侵害と二次被害を認定し市に是正措置を勧告しましたが市は拒否。女性は19年、提訴しました。
 裁判で市は、女性が部長の危険性に気づきながら「適切なセクハラ対応」をとらなかったなど女性に「過失」(注意義務違反)があると主張。損害賠償の「過失相殺」などを求めています。
 これに原告側は、市の主張に貫かれているのは家父長制的観点から被害者の行動を責め、性暴力の責任を転嫁する「差別的判断基準としての『強姦神話』だ」と指摘。この基準で性暴力をなかったことにして権利侵害を否定したり、違法性や責任、損害の軽減を図ろうとするのは「憲法14条の性別による差別禁止規定に反する」と主張しています。

●安全な取材期待
 女性は今年2月、最終意見陳述で「被害にあった人がその後も生きられる像を示したい。そのためには長崎市の責任が認められることが大事。女性記者の安全を保障し、取材や報道の自由が保障・確立されるよう、判決に期待する」と訴えました。
 訴訟が進む中、長崎市議会では同事件に関する質問中に「被害者はどっちだ」などのヤジが飛びました。被害女性の弁護士と支援する新聞労連が議員の特定と謝罪を求めましたが、長崎市議会の佐藤正洋議長(当時)は拒否。日本共産党長崎市議団は「ヤジがあったのは事実。議会として謝罪するべき」だと批判しています。