「しんぶん赤旗」2022/8/10

長崎被爆4団体要請と岸田首相の対応

 長崎県の被爆4団体の代表は9日、長崎市内で岸田文雄首相と面談し、核兵器禁止条約への署名・批准や、長崎の「被爆体験者」らの被爆者認定などを求める要望書を手渡しました。

 要望書の趣旨説明をした長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は、ウクライナに侵略したロシアが核で脅す中、核兵器を持っていれば安全だとの核抑止は破綻したと強調。「今こそ、日本政府が核廃絶で世界をリードし核兵器禁止条約に署名・批准することが求められている」と迫りました。

 岸田首相は、「核兵器禁止条約に核保有国をどれだけ近づけることができるかがわが国の使命だ」と言うものの、「唯一の同盟国であるアメリカとの信頼関係を基礎としながら現実を変えていかなければならない」と説明し、核兵器禁止条約への参加を否定しました。

 面談後、田中氏は、長崎市の地形地図を手に、「放射線が降ったとの科学的調査を無視し、『黒い雨』を認めようとしない国の姿勢は許せない」と発言。長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は、岸田首相の核廃絶への姿勢はこれまでの政権と全く変わっていないと指摘。「結局、アメリカがいいよと言わなければ参加もしない。軸足が動かないままで本当の『橋渡し』はできない」と厳しく批判しました。

 面談の中で岸田首相は、現在の被爆体験者事業にがんの一部を追加する考えを表明。「来年4月以降の医療費支給を開始できるようどのようながんを対象にできるか厚生労働省に速やかに検討させたい」と述べました。 

 長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長、一般財団法人長崎原爆被災者協議会の田中重光会長、長崎原爆遺族会の本田魂会長、長崎県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長の4団体が要請しました。 

 

 【2面】首相また条約触れず長崎平和式典でのあいさつ

 岸田文雄首相は9日の長崎平和式典でのあいさつで、広島に引き続き核兵器禁止条約に触れませんでした。また、核不拡散条約(NPT)で核兵器保有国に核軍備縮小・撤廃の交渉を義務づけた第6条にも言及しませんでした。

 さらに原爆症の認定について「できるかぎり迅速な審査を行うなど、総合的な援護施策を推進する」と述べるにとどめ、長崎の「被爆体験者」ら被災者が求める被爆者認定に言及しませんでした。

 広島高裁は昨年7月、「黒い雨」に遭った広島県内の住民84人を被爆者と認め、国が指定区域外の被爆を認めてこなかったことを違法と判決。国は上告を断念しました。しかし国は長崎に「黒い雨」が降ったと認めず救済から除外しています。長崎県は7月5日、原爆投下直後に「黒い雨」が降ったと結論付けた県の専門家会議の報告書を政府に提出。「黒い雨」は客観的に記録されているとし、長崎を対象外とした被爆認定新指針の見直しを厚労省に求めています。