「しんぶん赤旗」2020/8/4
写真集「長崎の証言」が50年ぶり復刊
 被爆から25年目の被爆者の姿をとらえた写真集『長崎の証言』が、被爆75年の今年、新たな写真を加え50年ぶりに復刊されました。再出版の作業に当たった写真家たちに思いをききました。

 初版は、1970年に「日本リアリズム写真集団長崎支部」(JRP)が発行したものです。
 被爆75年がたち、山口仙二さん、谷口稜曄(すみてる)さんなど、写真集に登場する被爆者はすべて亡くなりました。JRPでは、あらためて被爆の実相を、特に戦争を知らない若い世代に伝えていかなければ、と再出版を決めました。

 初版で被爆者に肉薄したのは、当時30代のメンバー10人です。「生々しい被爆の傷跡を目の当たりにし、撮影はとても重かった」と黒ア晴生さん(85)は振り返ります。

 原爆に娘を奪われ、約20年間病床に臥す身となった冨永吉五郎さん。お弁当を手に座敷の真ん中に座り込み撮影の機会をうかがう黒アさんに、「あいつはなにものか」と受け入れてくれませんでした。しかし、最後には「風呂に入るところを撮ってくれ」と言うまでになりました。「被爆者の気持ちの中に入りきり、信頼関係が築けたから撮れた」と黒アさんはいいます。

 原爆詩人として知られる福田須磨子さんの写真を撮った村里栄さん(86)。写真集には、原爆の後遺症で髪が抜け落ち、悲しげに遠くを見つめる福田さんが写っています。

 普段は帽子をかぶっていた福田さんに、「すまちゃん、シャッポを取ってよ」と頼みました。しばらくじっと顔を見つめ「うちも女よ」と言いながら、帽子を取ったその目に涙があふれてきました。「撮らなければ」という使命感ばかりが強かったという村里さんでしたが、その表情に胸を突かれ、一瞬シャッターを切ることができませんでした。

 今回の再出版では、「須磨子忌」で福田須磨子さんの詩を朗読する高校生と、車イスで核廃絶を訴え続けた渡辺千恵子さんの半生をつづった創作曲「平和の旅へ」を歌う長崎のうたごえ協議会のメンバーの写真が加えられました。撮影した黒アさんは「被爆者から原爆を知らない世代につながっている。被爆者と周りの人たちがささえあっているということを伝えたかった」と語り、村里さんは「語りつぎ、歌いつがれることで、被爆者は精神的には死なないということ。被爆の実相を継承することの大事さをこの2点に込めた」と話しました。

 再出版にあたり、約7千枚におよぶネガをすべて洗い直しました。初版では被爆の実相をリアルに出したいと、ケロイドを強調するなどしていましたが、被爆者が明るく生活していた様子や細かい生活のひだもだしていこうと、自宅でくつろぐところや、街頭で署名を呼びかける姿も加えました。

 写真集の復刊には全国から支援が寄せられました。福島県からは79冊の注文があり、8月8・9日に同県で原爆写真展の開催が決まっています。「復刊がきっかけになり、原水爆禁止運動が広がり始めている」と黒アさんは語ります。

 写真集にはあらたに英文の説明を加え、9日の平和祈念式典参加の各国代表と県内の小・中学校に贈呈します。2千円(税込み)問い合わせはJRP長崎支部の村里さん(095・861・8350)