「しんぶん赤旗」2019/10/18
2019 とくほう・特報 長崎・石木ダム計画「強制収用」許さぬ 共闘拡大




 長崎県が57年も前に計画したムダな石木ダム事業のために、実際にそこで暮らしている住民の家屋・土地を強制的に取り上げ、追い出す「強制収用」に市民と野党が共闘して反対する動きが広がっています。「ふるさと山河は永遠」を合言葉に先祖代々の土地で13世帯約60人が仲良く暮らす同県川棚町川原(こうばる)地区を訪ねました。(阿部活士)

土地も、家屋も、お墓まで 目的不明事業のために取り上げ!?

〜川棚町川原地区ルポ〜

 県道沿いにある川棚町役場から車で5分足らず。川原地区は川幅が10メートルもない石木川沿いに田んぼや畑が続く中山間地の農村集落です。「自然遺産 川原遊泳場」の看板もあり、たくさんのハヤが泳ぐのが見えるほどの清流です。石木川の下流にダムがつくられると、豊かな自然がまるごと水没させられます。  家屋の強制収用は、米軍占領下の沖縄を除いて、戦後例がありません。

 

●座り込みで監視



 まだ夏の日差しが続く9日午前8時、13軒の人たちが、「強制収用反対」などのゼッケンをつけてダム工事現場を監視・遅らせる座り込みを始めました。平日午前中の座り込みは715日目だといいます。岩下和雄さん(72)は、「当初計画は工業用水用のダムだった。半世紀も前の話。ダムはいらない時代なのに、県は『必要なダム』の一点張り。ムダな金を使わずに必要な河川改修をしなさいと言っても、県は聞く耳をもたない」と話します。
 「強行的にことをすすめる県のやり方に怒りがわく」というのは、岩本宏之さん(74)。「子どものときから家族のように暮らしてきたわれわれを長い間苦しめてきて、あげくに財産やお墓まで取り上げる。われわれも人間として生きていく権利がある」
 県内や全国から「むだなダムはいらない」と座り込み行動に参加する人もいます。元長崎大学教育学部教授の森下浩史さんは、居住する長崎市で「いしきを学ぶ会」を組織しています。「どう考えても強制収用は不条理です。13世帯の土地や家屋、生活を強制的に取り上げることについて、納得させられる説明がされていません」と話します。

●超党派議員連盟

 「強制収用 あんまいばい(あんまりのことだ) どぎゃんかしよう(なんとかしよう)―。市民レベルでは、「石木ダム強制収用を許さない県民ネットワーク」が8月に結成され、強制収用を許さない超党派の議員連盟が9月14日に結成され、80人の国会議員・地方議員が参加しています。 10日には、同議員連盟のメンバーが、住民の座り込み行動を激励し、交流。午後は、川棚町議になった13世帯の一人、炭谷猛さんの田んぼに集合し、「来年もこの地でがんばる決意」を込めて来年の種もみ用の稲をカマで刈り取りました。
 立憲民主党長崎県連合副代表の小山田輔雄平戸市議は、慣れた手つきでカマを使いながら、「強制収用は後世に罪を残す、日本の民主主義を破壊する行為です。絶対に許してはいけない。この面でも市民と野党の連携が不可欠です」といいます。
 議員連盟事務局長の林田二三(ふみ)・東(ひがし)彼杵(そのぎ)町議は、「石木ダム事業はよその地域のことではなく、私たちのこと。ムダかどうか勉強していこうと発足しました。石木ダムがなくて困る人はだれもいないのに、強行される事態はおかしい。こんな自然豊かな里山は九州でも少ない。個人的な思いはダムは止めたいし、里山を生かした地域づくりをともに考えたい」と話します。
 議員連盟代表の城後(じょうご)光・波佐見(はさみ)町議と笑いながら稲刈りをした日本共産党の河野龍二・長与町議は、話します。
 「お墓も強制収用の対象にされると知って、驚いた。この地を開墾し何代にわたって築いた地域の文化、歴史もダムの底に沈めるという非情なこと。今回の懇談は地方議員レベルですが、強制収用を許さない市民と野党の共闘の大きな一歩だと思う」
 炭谷さんも、「超党派で集まってくれたのは力強い限りです。石木ダムというのは、強制収用しなければならないほどつくるべきものなのか。本来の民主主義、住民が主人公であるはずの地方自治について、各自治体レベルで議員という立場で発言し考えてくれるはず」といいます。

「意識変えよう」

 稲刈りには、「県民ネット」結成をよびかけた長崎市在住のフリー編集者・松井亜芸子さんも同行しました。
 「行政代執行されたら、この国はどうなるんだろうとの思いが強い。地球環境保全や温暖化ノーが世界の動きになっているのに、ダムみたいな事業をまだやるのかという気持ちです。『こうばるはみんなのもの』というパンフをつくりました。城後さんたちとも連携して、石木ダム問題を他人事から自分ごとに考える人を増やすため意識を変えたい、ですね」