5500億円投入しながら
閉め切りで汚濁の児島湖 浄化めど立たず
諫早干拓も二の舞いに
岡山市南部の国営干拓事業で、瀬戸内海の内湾、児島湾を閉め切って造った児島湖が一九六二年の完成以来、水質保全事業(四期二十年)だけで総額約五千五百億円もの費用をかけながら環境基準達成のめども立っていないことがわかりました。国の干拓事業で長崎県諫早湾を閉め切って造った調整池でも、水質が基準値をはるかに超えた状態がつづいています。浄化対策が長崎県民の重い負担になってくると予想され、児島湖の行方が注目されています。(松橋隆司)
児島湾の干拓事業は広く発達した干潟五千五百ヘクタールを埋めたてる大規模なもので、明治時代に始まり、戦後の一九六三年に完成しました。その前年に児島湾の約一千ヘクタールを閉め切り、農業用に淡水の児島湖を造りました。
児島湖は、堤防で閉め切られたため、流れが滞留し、プランクトンの増殖などで水質が悪化しやすい閉鎖水系に。
岡山県は、児島湖の浄化対策を県政の重点施策として取り組んできました。八六年からは五年ごとに水質保全計画を立て、下水道整備や浄化槽の設置などの事業を進めてきました。
その事業費は、第一期が八百五十六億円、二期千九百二十六億円、三期千六百九十八億円、今年三月終了した四期は速報値で九百八十一億円。事業費総額は五千四百六十一億円にのぼります。五期の計画は現在、策定中。過去にならえば一千億円規模になります。
県の担当課によると、負担は大まかに、市町村が五、県が一、国負担が四の割合です。
しかし、有機物の汚濁量を示すCOD(化学的酸素要求量)は八六年以降、一リットル中五ミリグラムの環境基準値に対し、十二ミリグラムから八・三ミリグラムの間を推移。最近はやや改善がみられるものの、平均は九・九ミリグラム。環境基準の二倍の汚濁量です。リンは基準値の二倍前後、チッソも一・五倍前後です。
ばく大な税金を投入しても従来の対策では、基準達成の見通しがないのが現状。今後も巨額の税金投入が続き、県民に際限ない負担を強いるだけに、住民団体や漁業者は、水門を開いて海水の浄化力を利用するなど、県民の声を集めた抜本的な対応を求めています。
水門開放でこそ改善
海洋科学の専門家で水質問題に詳しい佐々木克之・元中央水産研究所室長の話 諫早湾の調整池は、湾内を堤防で閉め切られて以降、水は滞留して赤潮プランクトンが発生し、プランクトンを食べる貝類もいなくなったので、有機物が増加しました。塩分もなくなったので浮泥がまき上がるようになり、チッソやリンも増えました。
調整池の汚れた水が諫早湾に流れこんで湾内漁業、有明海漁業に深刻な影響を与えています。農水省は、下水処理場の建設、ヨシ原の造成、野菜栽培による浄化対策など思いつく方法を事業化しています。それでも水質はよくなっていません。
調整池に流れこむ河川の水を下水処理場できれいにしても泥からチッソやリンが出てくるので調整池の水質がよくならないのです。児島湖もまったく同じとみられます。
水質改善の唯一の方法は、海水の導入です。実は、二〇〇二年に調整池に一カ月だけ海水を入れたことがあります。このとき、調整池の水質は実際に改善したことが示されました。
ばく大な県民負担の軽減と漁業回復のために、農水省と県は、水門開放に踏み出す時期です。
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