見解・主張へ
新幹線反対コーナーへ
「しんぶん赤旗」2008/4/5〜4/6連載
見切り発車の新幹線着工
新幹線長崎ルート

 マスコミの調査でも「反対」が「賛成」を上回っている新幹線長崎ルートについて、国土交通省が着工認可してから一週間。並行在来線はどうなるのか。数百億円もの地元負担をどうするのか…。佐賀、長崎の関係県内で不安と疑問が広がっています。「見切り発車」していいのか、現地から考えてみました。(佐賀県・平川明宏、長崎県・原口一二美)

沿線住民の不安と疑問
 今回、国交省が着工認可したのは、武雄温泉駅(佐賀県武雄市)〜諫早駅(長崎県諫早市)の約45`の区間(地図)です。来月二十八日に佐賀県嬉野市で起工式を開き、二○十八年ごろに開業を目指すとしています。

 この新幹線建設でモロに影響を受けるのは、博多〜長崎間を走る長崎本線です。
 「かもめ」などの特急列車は現行五十四本が、十本に激減し、長崎行きはなくなります。しかも、在来線は、ディーゼル車で新幹線の開業後二十年間だけ運行することが決まっています。

 その特急が止まる肥前鹿島駅。一日の利用者は約二千八百人になります。夕方近く、ビジネスマンや学生らが乗り降りしていました。

小売店主嘆く
 「毎日、孫の通学を車で送り迎えをしている」という六十歳代の女性は、「孫も利用するので、在来線を守ってほしいです」と話しました。

 タクシー乗務員は、「私たちにも、市民の足にも影響がある。新幹線が通っても、鹿島の活性化にはつながりにくいと思う」と話しました。

 駅から徒歩五分のところで書店を開く若い経営者は、「新幹線には反対でした。国の判断で押し付けられたと思うと悔しい。うちは学生さんのお客が多い。そのほとんどが毎日、在来線を利用しているし、廃線になれば市民の足をどう守ってくれるのかと思う。国が責任をとってくれるとは思えないし、誰がどう責任をとるのか」と語気を強めました。

町づくりに影響
 佐賀県鹿島市は、「町づくりを考えれば、長崎本線抜きでは考えられない」との立場から、十七年間、反対をし続けてきたという桑原允彦鹿島市長。着工決定を受けた会見で「反対の旗印を降ろしたい」と地域振興を重視する立場から国や県との対立に「区切り」を表明しました。

 その一方、JRの在来線運行が開業後二十年間しか運行せず、その後の保障がないことから、特急の増便を求めていくとしています。

 市の商工会も批判的です。鹿島商工会議所の中島勉専務理事は、「新幹線は会員の中に賛否があるが、長崎本線を守る立場は市長と同じ」と話します。
 一方、新幹線の新駅が建設される予定の大村市。現在でも、長崎空港、高速道路インターがあります。

 大村線の大村駅から約二・五`離れた新駅予定地は、すでに長崎県と市が土地を買収しており、在来線の駅に新駅を併設する可能性が低い。

 日本共産党の久野正義市議(写真)は、新幹線新駅と在来線とは接続しないため利便性に欠けるだけでなく、国道四四四号線との接続や駅前広場の建設費用が全額市の負担となることなど問題点を指摘します。

 新大村駅への停車数も未定であり、運賃も二倍近くになることを考えれば、負担に見合う「新駅」効果は疑問だといいます。


一分短縮に約百億円以上

 二日、長崎市内で開かれたシンポジウム「どう生かす九州新幹線西九州ルート〜長崎観光新時代〜」(西日本新聞社ほか主催)。金子原二郎県知事、田上富久長崎市長も出席するなど、いわば、新幹線の建設推進派による、新幹線の活用法をさぐる集会です。

観光振興は疑問
 推進派は、観光客の呼び込みのために新幹線が必要だと言ってきましたが、シンポのパネラーからは、「『さるく博』などイベントを充実させる」「『唐人屋敷』『長崎街道』など観光資源を活用する」「地理的な条件を生かし、アジアとの交流をはかる」などの意見が出されたものの、新幹線建設が観光を呼び込む決定打だという話は出ずじまい。

 集会の印象について、参加した六十代の男性は、「新幹線を生かすということでは具体的な話はなかった。新幹線はあってもなくても観光振興には関係ないのでは」と語りました。

 実際、新幹線建設は、「必要」という県民世論は、長崎、佐賀両県とも二割〜三割台(グラフ参照)。県民生活をないがしろにしたまま巨費を投じることに疑問をなげかける声は依然として強いのです。

 建設費は約二千六百億円。佐賀県の負担は約二百億円長崎県の負担は約三百億円です。新鳥栖〜武雄温泉は、車軸幅を変動するフリーゲージトレインという列車を開発して走らせるとしています。

 両県には具体化されていない地元負担がまだあります。
 長崎では、約四百億円がかかると見込まれる長崎駅の高架化、JRの立体交差化など。
 現在、国が建設を認可しているのは諫早までです。長崎まで延ばせば、さらに千百億円が必要となります。

 その巨費まで投じていくら時間が短くなるのか。
 現在特急に比べて、長崎〜博多間が約二十六分短縮するだけ。博多〜武雄温泉間ではたった五分だけ。佐賀県民のなかには、「一分の短縮に約百億円かける無駄遣いだ」との批判があるのは当然です。

 「着工認可の決定は多くの県民の声を無視するものであり、県民の暮らしや福祉などの予算を無慈悲に削減し、費用対効果もない不要不急の新幹線建設にあてるがごときは許されない」。

 これは、長崎「新幹線」の建設中止を求める県民の会が二十七日に発表した声明です。

住民の足奪う
 新幹線建設をもっとも強力に推進する長崎県で、「住民の足」を奪う対照的な動きがありました。

 昨年四月、県営バスが撤退した島原半島で、この三月末で島原鉄道南線(島原外港‐加津佐)が赤字を理由に廃線となったことです(写真)。

 住民からは南線存続の強い要望がでていました。しかし、県は新幹線に莫大な税金をつぎ込む一方で、住民の足である南線には財政的支援をしようとしませんでした。

 島鉄に関連する仕事を長年してきた女性は、「鉄道はお年寄りにはなくてはならないもの。廃止になれば出かけることができなくなってしまう。これから町はさびれるばかり。新幹線もいいが、こちらにも国が補助してほしい。悔しい」と涙をにじませました。

 佐世保市にすむ諫山隆子さん(自営業)はこう語りました。
 「税金や後期高齢者医療、こんなに閉塞感があるときに観光客が増えるわけがありません。税金の無駄遣いです。そんなお金があればもっと身近なところに使ってほしい」