「新たな方策」はムダにムダを重ねるもの

 有明海沿岸の漁業者らが強く求めている諫早湾・潮受け堤防排水門の「中・長期開門調査」について農水省は十一日、「見送り」を表明。「開門調査をしても成果が明らかでない」「漁業環境に影響を及ぼす」とした見送り理由について、東幹夫・元長崎大学教授(農水省・ノリ不作等第三者委員会委員)に聞きました。
   ………………………………………… 「開門調査の成果が明らかでない」とは「原因究明できない」ということですが、この数年の重要な変化は、多くの人たちによって有明海異変の研究がすすめられ、有明海再生のためには「中・長期開門調査が避けて通れない」との研究結果が相次いで発表されたことです。
 諫早湾潮止め後の流動の変化、有明海全域に広がる底質と底生動物の激変、貧酸素水塊の発生や赤潮の多発、干潟の浄化機能喪失による調整池の水質悪化など、大筋で諫早湾干拓事業が有明海に悪影響を及ぼしていることが、実測値でもシミュレーションでも明らかになってきたのです。
 開門調査をしないための時間稼ぎとしか思えない農水省の議論は、科学的に明らかになった実測値を無視し、都合のよいシミュレーションで、結論を開門調査否定に導く逆立ちしたものです。
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 亀井農水相は、「漁業環境に影響を及ぼし、新たな被害が生じる」とのべていますが、これは短期開門調査直前の二〇〇二年三月、「諫早湾干拓事業開門調査の実施について|疑問や懸念にお答えします」という冊子で、農水省自身が否定してきたことです。
 冊子は、「諫早湾や有明海の生きものや漁業に影響が出るのではないか」との問いに対し、「海水導入がすすむにつれて海水による希釈や塩分による濁りの凝集効果により、調整池内の濁りは海域と同じ程度になり、排水による影響は小さくなる」と答え、底質への影響も小さいと説明していました。事実、調査時の実測でも浮泥(SS)の量は一週間で一割程度に減り、ほぼ予測通りになりました。
 短期調査で否定した漁業被害を、中・長期調査では「被害が生じる」とし、その根拠も示さないままでは、開門調査をやらない理由にはなりません。
 実際はより多量の海水を出し入れすることで、潮受け堤防外の海水も底質もむしろきれいになるのです。長崎県有明町の漁民が、「短期開門調査直後はカニがよく獲れた」と話しているのはそのことを裏づけています。
 農水相は、新たな代替策として「潮流や貧酸素現象などの観測調査」「排水の浄化装置の設置」など三つをあげていますが、いずれもムダにムダを重ねるものです。
 排水門を閉じたままの調査は、これまで実施されてきたことです。「有明海特別措置法」に基づく、小手先の施策では効果がないことも明らかになっており、「湧昇流の施設」などノリの第三者委員会の議論ですでに否定されたものです。調整池からの排水の「抜本的改善」をいうなら、海水を入れてきれいにするしかありません。
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 有明海異変の原因のすべてが諫早湾干拓事業ではないにしても、もっとも重大な影響をもたらしている疑いはきわめて濃厚で、すでに多くの状況証拠が得られています。
 忘れてならないのは、魚も貝も、ノリも、他の海域に見られない多様な生きものも生息していける、有明海特有の生態系を維持できるようにすることです。それが有明海再生であり、漁業者や住民の生活を守る道です。
 そのために、有明海生態系を壊している疑いのもっとも強い「潮止め」という要因を取り除き、状況の変化をみながらもとの状態に戻していく「順応的管理」が求められています。
 中・長期開門調査は、単に原因究明というだけでなく、壊された自然環境再生の第一歩でもあるのです。
有明海再生には、多くの研究成果のうえにたった開門調査が不可欠
  元長崎大学教授・東幹夫氏に聞く
「しんぶん赤旗」2004/5/19