諌早湾干拓問題質疑 その2
中田県議の農林部所管事務質疑

     2001.9.27-28農林水産委員会質疑 
(質問・中田)
 諫早湾干拓事業について質問します。さきほど農林部長説明で「国営諫早湾干拓事業については、国において工事再開にむけて対応しているが、一部工事がなされたけれども、その他の防災工事、農地造成工事、内部堤防工事については、いま工事がストップしている。県としては強く工事再開を求めている」といわれましたが、これについてはさる3月27日の農水省ノリ不作等調査検討委員会の委員長まとめで「当面、水門を閉めての年間通じての調査をおこなう。その間干拓現場においても堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい」というまとめが出て、それで工事が止まっていると私は思っていますが、そうじゃないんですか。

(答弁・諫早湾干拓担当 國弘実参事監)
 これにつきましては4月5日に農水省から県にみえて説明があり、その中では「ノリ調査第三者委員会の議論をふまえて、当面前面堤防の工事は実施しない。緊急に実施が必要な防災工事や、環境に悪影響を与えない陸上工事については実施する」ということになっております。そういうこの時のお約束からすれば、いくつかの防災工事、小江工区、西工区の農地造成工事、はやるということでしたが三県漁連に配慮して工事が止まっている状況です。

(質問・中田)
 いま一番大きい工事で焦点は前面堤防工事なんですが、これについては農水省もノリ第三者委員会の提言にもとづいて中止し、県もそれを了承しとるんですね。

(答弁・諫早湾干拓担当参事監)
 この話は当面止めるということでしたので、ある程度の調査をみたあとでは当然工事を実施すると考えております。工事を止めるなかみについて十分納得しているわけではありません。聞き置いているという状況でございます。

(質問・中田)
 部長説明によると、干拓工事全部を早くやれといっているのですけれども、これはきちんと区分けして、前面堤防はもちろん、その他の環境に影響がありそうな工事については、ノリ第三者委員会が調査中は工事を待っとけというて、農水省も待ちましょうといっているんですから、県もそれにはきちんと従ってもらいたい。そうであれば部長説明で「内部堤防工事などがとまっており、県としては、これらの工事についても約束通り実施されるよう強く要請してまいります」なんていうことは言ってはいけないんじゃありませんか。内部堤防工事はいたしませんと、長崎にきたとき副大臣がいったんでしょう。調査するための工事中止には県も協力しなければならないんですよ。そうしなければ干拓の影響が明らかにならないんですから。この点どうですか。

(答弁・諫早湾干拓担当参事監)
 前面堤防工事はやらないということでしたが、その他の工事はやるという約束でしたので、それは再開していただきたいと考えています。

(質問・中田)
 工事ストップは、はじめは三県漁のやむにやまれぬ座り込みから始まりましたが、その後、ノリ第三者委員会の要請によって調査のために工事は止まっているんです。そして事業再評価委員会のみなおし答申を受けて、農水大臣も見直すといっているんですから、当然工事は中止して新たな方針を待つべきですから、県もそのように対応していただきたいと強く求めておきます。
 つぎに、おなじく農水省ノリ不作等調査検討委員会すなわちノリ調査第三者委員会が9月20日に中間まとめをおこない、そのなかで「潮受け堤防の水門を開門しておこなうべき調査についての経過」というものが中間まとめの一部分になった、とさきほど文書が配られて、諫早湾干拓室長から説明がありました。それによりますと「調整池内の干潟・浅海域の浄化能力の評価、調整池内の水質や浮泥の周辺環境および赤潮発生等への影響改善の解明」のために「短期調査としては開門して二か月、中期調査としては生態系が周年変化を繰り返すまでの期間として少なくとも数年を仮定する調査」とされており、さきほど干拓室長が説明されたとおりであります。「実施の時期については、閉門した調査が終了後適当な時期に速やかに」となっていますから、間もなく来年の春だと思います。こういうふうにもう堤防水門を開けて重要な調査を行うことがハッキリ決まってきて、本委員会に県から報告もされていますが、これは当然県としても従って、開門調査を実施してくださいという立場だとおもいますがどうですか。

(答弁・諫早湾干拓担当参事監)
 この中間まとめは、決定ではなくて開門の方法、内容についてはまだ決めておりませんと、委員長がいっております。だから、開けるか開けないかまだ決まっていないといっております。従いまして、あけて調査をすれば何がわかるかということをとりまとめただけでございます。

(質問・中田)
 じゃ何のためにこの資料をこの委員会に配って干拓室長がわざわざ報告したんですか。第三者委員会の中間まとめになったということは、いずれこのようになるということじゃないですか。
 第三者委員会が水門をあけての調査の検討部会をつくってずっと検討してきた、その到達点を中間的にまとめたものなんです。こんご若干変わるかもしれないし付け加わるもしれませんが、開門調査の基本はこれでいくんですよ。他にはないんです。本決まりになった時には当然県は尊重すべきですが、部長どうですか。

(答弁・真崎信之農林部長)
 私どもといたしましては、第三者委員会の委員長も今後シュミレーションなどの検討が残っているといっていますので、まだ本決まりでない中間まとめの段階だと受け止めています。

(質問・中田)
 しかし、開門して調査するということはもうそこまできているんですから、県がふさわしい対応をしてもらうよう、要望しておきます。
 つぎに、農林水産大臣による「規模縮小・見直し」の方針が出たことについて、辻原副知事が本会議で、それでは問題が起こるとして理由を何点かあげて、あくまで「計画どおりの事業実施」を主張されました。副知事は、見直しで農地面積が半分になれば農地価格が倍になって、営農計画が成り立たなくなる恐れがある、といわれましたが、もっと重大なことがあります。それは、この事業は土地改良法によって効果が費用を上回る必要がありますが、例えば農地が半分になれば、その費用対効果の算定で作物生産効果と国土造成効果が半分になって、今、1・01で辛うじて効果がうわまわっているのが、確実に費用が効果をうわまわって土地改良法が求める事業の要件を欠くことになります。これ以上税金を注ぎ込んで事業を続ける法的な要件を失ってしまいます。私はこの面からも規模縮小見直しはありえず、事業中止しかないと思っていますがどうですか。

(答弁・諫早湾干拓担当参事監)
 費用対効果については、いまの段階ではどのような見直しになるのかわかりませんので、私ども何とも言えません。たしかに単純に考えれば議員がいわれるとおりだろうと思います。それ以上具体的にはお答えできません。
 もしかりに東工区が落ちてそういうことになれば、議員がいわれたとおり費用対効果は落ちるということは懸念されます。それは認めますが、具体的な内容についてはまだお答えできません。

(質問・中田)
 同じ予想でも、辻原副知事は農地価格について心配されましたが、費用対効果についても心配すべきじゃないかと思うんです。もちろん国営事業ですから農水省が進めますが、2490億円の総事業費のうち、県が438億円18%も負担するし、今年だけでも31億円も県が負担している事業ですから、県としてもしっかりものをいっていただきたい。
 つぎに事業再評価第三者委員会は「環境への真摯かつ一層の配慮を条件に事業を見直されたい」という意見を答申しました。この議論の中では、事業の中止または休止を求めて意見が続出しています。主なものとして「失われた干潟の浄化能力など外部不経済を考慮すれば、1・01という事業の費用対効果が崩れる可能性があり、新農業基本法に整合しない」「多大な国家予算を使って農地を拡大するよりも、遊休農地や耕作放棄地の有効活用が先決」「ばれいしょの単あたり収穫量が過大など、営農構想の実現性に疑問がある」「有明海ノリ不作などの原因究明のため、ノリ不作等調査委員会の水門を開けての調査がされるが、その結論が出るまで事業は中止すべきだ」「防災対策は干拓方式が唯一の対策ではなく他の方法も可能である。洪水対策は河川堤防のカサあげ補強で置き換えうるし、排水不良の改善は排水ポンプの増設でできる」など、いずれも事業の根幹にかかわる問題が提起され、中止、休止を求める意見があいつぎました。農林水産省側は繰り返し説明し反論していますが、ついに諮問された「事業の計画どおりの継続」を認める意見はありませんでした。
 なかでも重要だと思うのは、「外部経済または外部不経済を算定して費用対効果の計算に加えるべきだ」という強力な意見が事業中止の根拠として複数の委員から出された点です。もし、この意見のように「干潟の浄化能力」を評価して外部不経済に加えるならば、確実に費用が効果を上回って法律の要件を満たさなくなります。そこで、農水省側は「干潟の浄化能力を定量として評価するのは難しい」と言い訳に努めますが、「農水省自身が、日本農業の外部経済を6兆円と算定して示していることと矛盾するじゃないか」と追及されて、「環境をどう算定するか検討しているところだ。今後省をあげて新しい評価の研究をやっていく」とこたえています。そしたら委員から「これからやるんなら、今この機会にやった方がいい。やれるスタッフもいるじゃないか」と追及されています。私もそう思います。この重要な提起は第三者委員会の中では解決していませんが県としてはどう受け止めますか。(答弁・農林部長)そういう議論をふまえまして、農水省の「事業の実施方針」がだされ、農水大臣の記者会見での「見直し」表明があっていると思っております。費用対効果については当然農水省が見直し、規模縮小のさいには費用対効果がどうなるのか、十分にふまえて成案を出すものと理解しております。それを見て意見をいっていきたいと思います。

(質問・中田)
 これは、なぜ「事業見直しなのか」「中止なのか」に関わる最も大事な点ですが、本委員会の水産部議案審議でも述べたように「干潟の水質浄化力」は明らかで、国土交通省は水質浄化のための干潟造成の国庫補助事業を実施しています。三河湾で昨年実施された干潟造成事業では、38fを8億3千万円で造成していますから1fの干潟造成費は2180万円となります。諫早湾干拓で失われた2900fに当てはめると632億円の損失すなわち外部不経済となって、これを算入すれば費用対効果は確実に1を割って、法律が求める要件を失います。
 また同じ三河湾一色干潟1000fは、一日当たり988sの窒素浄化力をもつことが調査で明らかにされています。これと同じ能力の下水処理施設建設費の試算878億円にもとづけば、諫早湾干潟はその3倍で2600億円の価値があります。この外部不経済だけで干拓事業の効果を上回って法律が求める要件を失ってしまいます。
 第三者委員会の委員はこうした点を挙げていますが、ことは法律の要件を欠くか満たすかの根本問題で、それを先送りしてうやむやにすることは国民が許しません。県としてもぜひきちんと受け止めていただきたい。
 最後に、この委員会のもひとつ重要な提起であります「防災対策は干拓方式が唯一の対策ではなく他の方法も可能である。洪水対策は河川堤防のカサあげ補強で置き換えうるし、排水不良の改善は排水ポンプの増設でできる」という点はどうですか。
 委員会では「こうした防災対策が干拓を進めるということで放置されてきたのではないか」とまでいわれていますが。

(答弁・農林部長)
 防災を検討する前提として、潮受け堤防は常時開けておくのか、調査がすんだら閉めるのか、まだ不明ですし、堤防や樋門の補強をどうするのかわかりません。樋門ひとつでも二反田川の例で十億円かかっています。費用も期間も大変で国はどうしようというのか見えてまいりません。佐賀では堤防がつくられてきたといいますが、まだ百パーセントではなく進行中です。諫早では潮受け堤防によることが短期に効果的ということで干拓方式がとられたものであります。

(質問・中田)
 「防災対策は干拓方式が唯一ではなく、かわりの方法があり得るんだな」ときいているのですが。
(答弁・農林部長)まだ国から基本的な前提が示されていませんので、それを踏まえた上でどういう対応をするか議論をさしていただきます。

(質問・中田)
 潮受け堤防がある中で、旧堤防を補強しポンプを増やせば防災は十分にできます。そして干拓は中止し、水門を開けて諫早湾の干潟を再生し、その自然の力で有明海を元の海に戻すよう強く求めて質問を終わります。