「しんぶん赤旗」201111/29/
取り返しのつかなくなる前に開門を 
諫早干拓開門判決確定から1年 
国は漁民に謝罪もせず

 国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門の開門を命じる福岡高裁判決(昨年12月6日)確定から1年がたちました。国は、誰も望んでいない制限開門の「3―2開門」実施を進め、開門判決を勝ち取った漁民は、魚場環境の悪化にも苦しめられています。(長崎県・村ア利幸)


 判決確定を受けて「よみがえれ!有明訴訟」弁護団は国と開門協議を重ねてきましたが、国は開門を先送りする姿勢に終始。
 6月のアセス素案の公表で国が判決の開門義務に反する「3―2開門」を推し進める意図が明らかになり、「全開門」を望む有明海沿岸の漁民や開門に反対する長崎県などからも批判が相次ぎました。

 国は、開門期限の「2013年12月」までに事前工事を終える必要があり、最終的には通常時「全開門」しなければ、開門判決に反することになります。「有明訴訟」弁護団の堀良一弁護士は「『3―2開門』と開門調査をへて、段階的開門を実施。2013年12月に全開門するよう求める」としています。

 国が開門義務履行を怠る中、開門判決に逆行する動きが続きました。「有明訴訟」裁判の小長井・大浦訴訟で、長崎地裁が6月27日に漁民の開門請求を棄却する不当判決を出し、7月には県が支援する「開門差し止めを求める訴訟」が始まりました。

 「有明訴訟」弁護団の馬奈木昭雄弁護団長は「これらの動きをもってしても、国の開門義務と開門を命じた高裁判決はいささかも揺るがない」と指摘します。

 開門反対に突き進む県の姿勢に、堀弁護士は「高裁で補助参加もせず、判決が出るまでの2年間、何をしていたのか。将来の被害の懸念より、今現実に起こっている漁業被害に目を向けるべきだ」とのべています。

 この冬、瑞穂(雲仙市)・有明(島原市)の両漁協の秋芽ノリの養殖は、壊滅的被害に追い込まれました。諫早湾干拓事業堤防からの汚濁排水が原因と、漁民は訴えます。11日に諫早市で開かれた開門を求める集会で、松永秀則さん(小長井漁協理事)は「有明海が取り返しのつかなくなる前に、早く開門してほしい」と訴えました。(写真上)

 開門判決は「諫早湾干拓事業が漁業被害をもたらした」と認定しましたが、国は漁民に謝罪さえしていません。農水大臣は漁民に会うことも拒んでいます。弁護団は、漁業被害の実態を国が認め、謝罪するよう要求。たたかいは2012年に引き継がれます。

■国営諫早湾干拓事業 農林水産省が「防災機能の強化」「優良農地の確保」を理由に1989年に着工。総事業費2533億円。長崎県諫早湾を長さ約7キロの潮受け堤防で閉め切ったさいは「ギロチン」といわれ、1550ヘクタールの干潟が失われました。2000年には有明海一帯の養殖ノリの大凶作が発生しました

■「3―2開門」 国が6月の環境影響評価(アセスメント)素案で示した開門方法4案の一つ。調整池水位を現状のマイナス1メートルからマイナス1・2メートルの範囲で調整する最も低レベルの方法です。2002年短期開門調査と同じで「制限開門」と呼ばれ、10月に公表されたアセス準備書でこの開門方法実施を強調しています。国の試算では、工事費82億円。