「しんぶん赤旗」2011/12/21
発言 2011
被爆地域拡大の希望
 長崎県保険医協会副会長の本田孝也さん(55)

  9月に入手した「オークリッジリポート」で約1万3000人分の「黒い雨」に関するデータを放影研(放射線影響研究所)が保管していることを突き止め、11月8日に発表しました。情報公開とデータの分析を小宮山洋子厚生労働大臣に要請しています。

 オークリッジリポートを分析すると、新しい科学的知見が得られる可能性が大いにあります。
 放影研の前身であるABCC(原爆傷害調査委員会)が1950年代に実施した基本調査データ(MSQ)の中には、「黒い雨」を浴びたかどうか、どこで被爆したかの位置情報が入っています。それを再現することによっていつ、どこで「黒い雨」が降ったのかが明らかになります。

 オークリッジリポートの分析により、@正確な「黒い雨」の分布図が描けるA今まで解析されてこなかった急性症状のデータが解析できる―の2点から被爆の実相を証明できる可能性があります。

 放影研は、「残留放射線の人体影響はない」という研究結果を出していますが、オークリッジリポートは、この結論を覆す可能性を持っています。

 被爆地域から外されている長崎市間の瀬地区の被爆地域指定にもかかわってきます。放影研のデータと間の瀬地区の調査結果の二つが結びつけば、被爆地域を拡大する問題における、@雨が降ったA雨に放射能が含まれるB人体に影響がある―の三つのハードルをクリアすることができます。

 これまで政府は、新しい科学的知見がないとして、被爆地域拡大を求める声を切り捨ててきました。オークリッジリポートは被爆者健康手帳さえ交付されない被爆体験者救済の「科学的根拠になり得る」点で重要な意味を持っています。

 福島第1原発事故で低線量被ばくに国民の関心が高まっています。残留放射線の観点から洗い直すと有益な情報となり得ます。

 「黒い雨」に関する放影研のデータは、被爆地域拡大の希望となり得ます。放影研はオークリッジリポートのデータの集計方法に問題があるとして、「科学的に価値がない」「調査中」とのべていますが、解析もせずに何を調査しているのか疑問です。
■オークリッジリポート
 原爆傷害調査委員会(ABCC)の調査員と米オークリッジ国立研究所の研究員が1972年にまとめた報告書。「黒い雨」を浴びた人たちに発熱や下痢、脱毛などの急性症状が認められたとしています。本田医師が9月に入手するまで存在を知られていませんでした。
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■「黒い雨」
 原子爆弾の投下後に降る、泥やほこり、すすなどを含んだ粘り気のある大粒の雨で、放射性降下物の一種。広島、長崎で広範囲に降ったとされています。