「しんぶん赤旗」日曜版 2010/5/2
諌早湾開門へ広がる世論
漁協が方向転換 県に衝撃

 長崎県の国営諫早湾干拓事業で、開門調査をめぐる動きが大きな山場を迎えています。   赤松広隆農水相は与党検討委員会検討委の報告を受け、開門調査をおこなうかどうかの方向性を参院選前までに出すことを表明しています。長崎県では開門調査を求める世論が大きく広がっています。(長崎県原口一二美)


 「いつかは必ずよくなるであろうと堤防閉め切りから13年間耐えてきましたが、もう限界です」。
 雲仙市の瑞穂漁協の石田徳春組合長(73)は、4月13日、諫早市内で開かれた赤松大臣との意見交換の場でこう訴え、「開門」を求めました。

 瑞穂漁協は、今年2月の全員協議会で「開門」を全会一致で決議しました。これまで国見、瑞穂、小長井の諫早湾内3漁協は「開門反対」の立場をとっており、瑞穂漁協の方向転換は県などに衝撃を与えました。

 石田組合長は、「干拓事業で諫早湾周辺住民の生命・財産を守るという大義名分をつき付けられ、今までどおり漁業もできるということで事業に同意したのです。苦渋の選択でした」と語りました。

特産の休業17年
 かつて「宝の海」と呼ばれた有明海。1997年、諫早湾が潮受け堤防で閉め切られてから異変が続いています。

 「網が破れるほど」獲れた魚も、漁獲高が激減し、特産のタイラギ漁は諫早湾内では17年間、休漁したままです。毎年のように赤潮が発生し、養殖アサリが全滅。ノリも不作が続いています。生活に窮し、自ら命を絶った漁民も20人以上にのぼります。

 「漁業被害の原因は潮受け堤防の閉め切りにある」。漁業者たちは、排水門を開けて、海水を調整池に入れることを求めています。

 調整池の汚れた水が一方的に諫早湾に排水され、漁業に被害を与えているといいます。「海水を入れれば、水は浄化され、海はよみがえる。02年の短期開門調査でそれは証明されている」と漁民たち。

 開門を求める小長井・佐賀大浦漁民の「よみがえれ!有明訴訟」に続き、3月、瑞穂、国見漁協の漁民が提訴。湾内すべての漁協から漁民が立ち上がりました。3漁協の正組合員の6割が早期開門を求めていることも明らかとなっています。地元諫早市でも、「干拓の防災効果はほとんどない」と指摘する声が上がり、市民団体が「開門せよ」と署名にとりくんでいます。

 「長崎は開門反対一色かと思っていたが、開門しろという声が多く、意外だった」。3月に雲仙市で漁業者の声を聞いた赤松大臣はそのときの感想をこう述べました。

 「よみがえれ!有明訴訟」の原告・弁護団は、農業と漁業、防災すべてが成り立つ代案を示し、国に対策を求めています。

 松永秀則原告団長は、「農業がどうなっていいとは考えていません。調整池の汚れた水は農業には使えません。漁業と農業を両立させる方法が開門なのです」と強調します。
 赤松大臣は「開門を言う人ほど営農や防災に配慮している」と述べました。

代案を示して
 一方、県はかたくなに「開門」を拒んでいます。干拓地の営農者、周辺農業者・住民のなかには「開門反対」を唱える人も少なくありません。

 先の意見交換会で、中村法道知事は「防災機能や安定化の兆しをみせつつある農漁業に多大な影響、被害を及ぼす」と述べました。

 県内の開門を求める世論の広がりに、これまで開門に反対してきた民主党県連にも変化が出ています。民主党の大久保潔重参院議員(長崎選挙区)は、「防災などへの対策を国が万全に取れるなら、政治判断で開門調査をしてもいいと思う」と語っています。

国営諫早湾干拓事業

 国による「防災」と農地造成を目的にした干拓事業。諫早湾を潮受け堤防で閉め切ってつくった複式干拓です。

 2008年に工事が完成し、現在41事業者が干拓地で営農しています。総事業費2533億円。
早期に開門調査を 共産党
 日本共産党は、有明海再生のために「早期に開門調査を実施せよ」と主張しています。
 国会をはじめ県議会などで繰り返し、開門を要求。国に、農業と漁業、防災が両立する対策を求めています。
 有明訴訟弁護団の一員でもある仁比聡平参院議員は国会で4月26日、開門を命じた佐賀地裁判決に従うべきだと迫りました。ふちせ栄子参院長崎選挙区候補も「国や県は開門調査の協議のテーブルにつくべき」だと訴えています。