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諌早湾干拓
潮受け堤防の大量排水
長崎県が諫早湾干拓潮受け堤防から大量排水し、諌早市の小長井漁協の漁業者らがこれに実力で抗議した事件。県は、背後地の森山土地改良区から冠水解消の要請を受けて排水しました。農業と漁業の対立。そんな構図のように見えますが―。(長崎県・原口一二美)
「農業がよければ漁業はどうなってもいいのか!」。怒りをぶちまける漁業者。漁協の組合員らは県に対し、事前協議もなく一方的に排水したことに激しく抗議しました。
というのも今年、アサリや十数年間とれなかったタイラギなどの稚貝が多く発生し、漁獲が期待されていたからです。諫早湾干拓工事が始まってからずっと漁業被害に苦しめられてきた漁業者にとって、今年は漁業再生への希望をつなぐものでした。
排水があったのは3日。小潮の日です。小潮時は潮の動きが小さいため、排水があると淡水が漁場に滞留します。漁業者は「赤潮につながる」と反発しました。県は、原因は「不明」としていますが6日、諫早湾内の赤潮を確認しています。
県と漁協の間にはこれまで、「小潮時は排水しない」「大量に排水するときは事前協議する」との取り決めがありました。今回、県より排水計画が提示されましたが、漁協は小潮を理由に排水を認めない旨、伝えていました。しかし、県は、大雨で「森山の田畑が冠水し、被害が出る恐れがある」と排水を強行しました。
農業と漁業の対立ではない
同漁協の新宮隆喜組合長は、これまで「防災」のため干拓に協力してきたにもかかわらず、漁業環境はよくなっていないと述べ、「これまで漁業被害を何度となく耐え忍んできたが怒りは頂点に達した」と強い憤りをあらわにしました。
旧森山町は2005年諌早市に合併。古くから諫早湾干潟の干拓で開けたところであり、低平地です。そのため、大雨のたびに田畑が湛水(冠水)し、多くの被害を出してきました。排水対策はこの地区の住民・農業者にとって切実な要求でした。
佐賀県との違い
また、この地区は潮花と呼ばれる塩害にも苦しめられてきました。高潮で稲に潮がかかり、真っ白になって枯れてしまうのです。さらに、堤防の外に堆積する潟土の浚渫。人力によるみお筋(排水路)浚渫は住民の大きな負担でした。国営諫早湾干拓事業はこのような「防災」を口実に進められました。
しかし、同じ有明海の干潟で干拓が行われてきた佐賀県では湛水、高潮対策は、樋門管理と排水ポンプ、7bの海岸堤防などで対処。みお筋の浚渫も重機を使って解決してきました。佐賀県のような対策をとれば諫早湾干拓によらずとも対処できたのではないかとの疑問が湧いてきます。 |