「しんぶん赤旗」2009/02/01
生活の現場から
 島原半島で和牛肥育の山下達則さん
 農家は限界、国は支援を

 「この半年で蓄えを全部使い果たした。もう何もない」。こう語るのは、長崎県島原半島で和牛を肥育する山下達則さん=仮名=(50)です。「生命保険も全部解約して、餌代に突っ込んでしまいました」。 

 赤字1頭10万円
 仕事仲間は山下さんのことを「優良農家」と評価します。その山下さんが窮地に追い込まれたのは、昨年の餌代の高騰と価格の低迷です。

 山下さんの昨年十月〜十二月期の一頭当たりの販売価格は約八十七万円。子牛の仕入れが五十四万円、経費が四十三万円で差し引き十万円の赤字です。

 二十頭出荷すれば二百万円。餌代は、「三年前一d四万円だったものが六万五千円」になりました。「牛に十万円はりつけて出しているようなもの」と苦笑します。三年前に比べ、子牛の価格は上がり、経費は増えたにもかかわらず、販売価格は安くなりました。

 山下さんの場合、和牛を扱っているため、輸入の影響はなく、不景気による消費の低迷が価格に反映しているといいます。「和牛はぜいたく品のようなものですからね。三等級でこれまで千九百円だったものが今千四百円。一`五百円違えば一頭二十五万円違うことになる。二等級に至っては九百円。これでは赤字」だと話します。

 九州各地を回っているという農業資材会社社員の中村周一さん=仮名=は、「農家はみんな苦しんでいる。八割の人が赤字。一年間で千万円近くの赤字どうしようもない。あと半年もつかどうか。個人の努力の域を超えている」と農家の苦境を語ります。

 「このままではパンクする」と山下さんは金融機関に融資を申し込みましたが、「赤字では貸せない」。これまでの借入れの据え置きを要望しても「決まり事だから」と突き放されました。

牛は芸術品だ
 「シカゴのトウモロコシ相場は急落している。もう少しすれば餌は下がる。だが、下がるとわかっているのにそこまでたどりつけない農家がいっぱいいる。特別立法的な政策が必要」だと中村さんは指摘しました。

 「牛は餌をやるだけ食べ、食べすぎて死ぬんですよ」と山下さん。一頭一頭様子を見ながら餌のさじ加減をしなければならないといいます。「素人ではできない仕事。牛は芸術品です」と中村さんは話します。

「アメリカではこんな肉質は作れない。きめ細かい個体管理のできる日本だからこそ」。

 山下さんらは、「農家はがんばっているが限界がある。第一次産業がよくならなければ地域は潤わない。農業は日本の基幹産業。大事にしないとこの国の未来はない」と警告します。

 山下さんはこの急場を乗り切るには国の支援しかないと訴えます。「後を継がせたくない農政ではだめ。三十年間、少しずつ規模拡大してきた。口蹄疫やBSEで泣かされたが、餌が安かったので持ちこたえた。だが、今回は餌の高騰と不景気のダブルパンチ。自助努力ではどうにもならない」。