「しんぶん赤旗」2008/12/28
社会レポー  長崎・雲仙
養豚農家 見えない明日 
出荷するほど赤字に

「年末何もなければいいが」。長崎県雲仙市で養豚業を営む今田信弘さん(=j(仮名)は不安を隠しきれません。というのも昨年二人の同業者が経営難などを理由に自殺したからです。「国からは何の支援もない。誰がどうなってもおかしくない状況だ。先が見えない」。(原口一二美)


  
 今田さんは、六千頭の豚を飼育している県内では大規模な養豚農家です。雲仙の麓の山中にある豚舎はちょっとした工場のようです。谷合いに母豚舎、子豚舎と分かれて数棟並んでいます。ここで妻と息子、従業員二人と働いています。
 
 豚の成長に従って豚舎を変えます。数千頭もの豚を移動させるのは大変な作業です。天気が悪い日は雨に濡らさないよう気を遣います。「豚はデリケートですからね。かぜをひいたら大変です」。寒い日は温度管理が欠かせません。夜遅くまで異常がないか見回ります。

飼料高騰重く
 昨年末からの飼料の高騰は養豚業に打撃を与えました。今田さんは飼料を輸入業者から買い、自家配合しています。主原料の輸入とうもろこしは、二年前から徐々に上がり出し、それまで一d当たり一万七千円だったものが四万円と昨年末二倍以上に急騰しました。多くの農家が使っている飼料会社の配合飼料は一d七万円近くにも。今田さんのえさ代は月一千万円を大幅に超えました。

 養豚では飼料代が経費の大きな部分を占めます。経営は、飼料代が販売高の「五十%でぎりぎり、六十%だとかなり苦しい」。
 どこの農家も六十%を超えているといいます。「ほかの経費も考えれば六十%ではやっていけない。やめられる人はまだいいが、借金を抱え、やめるにやめられない状態。苦しくても自転車をこぎ続ける以外にない。みんな破綻覚悟だ」とその苦境を語ります。

 「出せば出すほど赤字」。今田さんは諫早市内の大手ハム会社に出荷しています。その価格は、会社が指定した四つの市場価格の平均で決まり、そこからさらに運賃相当分が先引かれます。
 価格について会社に改善を要望しても門前払い。「いらないといわれればそれまで」と肩を落とします。

価格補填を
 養豚業を圧迫しているもうひとつの要因は輸入豚肉です。輸入豚肉は一九九八年に比べ、約一・四倍に増えているのです。不景気でもあり、消費者が「価格の安い輸入豚肉に頼ってしまう」ことも価格低迷に影響しているといいます。生産コストを無視した量販店の問題も口にしました。

 輸入肉に関し、ある養豚業者はもうひとつの問題を指摘します。それは輸入豚に投与されている成長促進剤です。日本は国内では使用を禁止しながら、輸入豚肉については残留値が基準以下であれば輸入を認めています。
 「食の安全が叫ばれているときにこのような肉を輸入し続けていいのか」と警告します。

 今田さんたちはコストに見合う価格補てん、所得補償を強く求めています。
 父母の小さな畜産業を引き継ぎました。政府の「自給率向上」という方針にこたえ三年前規模を拡大。設備投資のための借り入れは億を超えました。

 「今の経営が合わないのに返済どころではない」。年に一度の返済日は一月二十日。目途は立っていません。「政府は農家を苦しめる政策ばかりだ。だまされた」との思いを募らせています。「今を大事にしないで日本の農業を守れるか」と語気を強めます。

 県養豚協会の田中實会長は、「自由競争というがアメリカや豪州とはコストが全く違う。競争できるわけがない。安い輸入品には太刀打ちできない。農家は潰れ、日本の農業は滅びる」と危機感を募らせます。

 県内農業生産額では三位に位置する養豚業。五年前は三百戸ほどあった県内の養豚農家も今は百七十戸足らず。全国的にも半減しています。畜産農家をどう守るか国・県の対策が急務です。