「しんぶん赤旗」2008/7/11
五島市 
原油高騰で漁業が危ない

  原油の高騰が漁業の存続と地域経済を脅かしています。全国漁協協同組合なとが呼びかけた15日の全国一斉休業を前に、漁業が主産業である五島市でその影響を聞きました。(長崎県 原口一二美)


 5日、五島市玄関口・福江港に程近い船だまりには、たくさんの漁船がつながれたままです。
 カワハギやアカムツ業をしている梼木(ゆすき)捨雄さん(70)は、「油が上がって遠くに漁に行けない。なんとかしてほしい」と話します。
 カワハギ漁の漁場は、上五島の有川や小値賀沖で、朝三時に出漁し、帰りは昼ごろ。兄弟三人で漁に出ます。魚は大阪方面に出荷します。

 一回漁に出ると重油をドラム缶一本(一八〇g)使うといいます。昨年一g四十三円だったものが今は百七円。一回の漁で約二万円かかることになります。重油だけでなく、漁具や箱代、輸送費も上がっているといいます。船のエンジンも定期的に修理が必要です。

 少しでも燃料代を節約しようと出港の時間を早め、低速で漁場に向かっている人も。梼木さんは「長く船に乗る分、体を酷使することになる」といいます。

 梼木さんは妻と二人暮らし。国民年金は月五万円です。「魚の値段は変わらず、経費がかかる。えさ代を差し引けば何も残らない。今は食べるだけで精一杯」という状況です。中学校を卒業してから五十年以上漁をしてきたが、こんなに苦しいことは初めてといいます。

エサ代引けば何も残らない
 キビナゴ漁師、林貞実さん(50)は、福岡や長崎に出荷しています。比較的近場の漁場ですが、一回の漁の油代は一万円から一万五千円。昨年は五千円程度だったといいます。「とった魚の輸送料や氷代を引いたらいくらも残らない。今は六、七年前の年収の半分。とにかく油をなんとかしてほしい。本当にきつい」と話します。
 今はまだ三十代、二十代の漁業者がいますが、「若い人は子どもを学校へやれない。後継者はいなくなる」と心配します。

 油が高騰してから出漁を見合わせる船が多くなったと五島漁協は話します。釣れるかどうかわからない状態では赤字になるからです。これまで日帰りしていた船も燃料代節減のため海上で一泊することもあるとか。

 漁業は、五島市だけでなく長崎県の基幹産業です。生産量全国三位、生産額は二位です。(05年、同県ホームページ) 

先が見えない 廃業もできない
 原油高騰による県全体の影響について、長崎県漁連の部長のひとりは、「過去にも二回オイルショックはあったが、当時は漁獲量もあり、魚価もよかったので油代の値上がり分を吸収できた。だが、今回はちがう。先が見えない」と表情をくもらせます。

 この部長によると、漁業者の主体は六十五歳前後。「後は継がせたくないと言っています。廃業したくても廃業できない。船を売りたくても買う人がいないからです。借金が返せません」。

 全漁連などの15日いっせい休漁の呼びかけにこたえて、長崎県漁連や五島の梼木さんたちも参加します。県漁連の先の幹部は、「国民に漁業の窮状をわかってほしい。国に油代の直接補てんと魚価の保障を訴えたい。消費者に迷惑はかけられません」