2007年5月18日(金)「しんぶん赤旗」

諫早湾閉め切り10年 第2部

まやかしの公共事業(8)

耕作放棄地 続出でも


写真

(写真)荒れ放題になった耕作放棄地=中央干拓地に隣接する諫早市森山町で(木村和俊氏提供)

 「干拓地の土壌は養分に富んでおり、大型機械による効率のよい営農で経営は十分に見込める」

 これは、干拓地の営農は困難という指摘に対する長崎県側の反論です。

 諫早市議会で、日本共産党の木村和俊市議が、この「反論」にかかわる興味深い質問(三月七日)をしています。

事例示せ

 干拓地での営農条件は、「環境保全型の農業」。入植農家は、営農開始五年以内に「有機栽培農産物」や「長崎県特別栽培農産物」の認証取得を目指すことになっています。しかし認証の基準が厳しい。

 木村市議は、「現在諫早市内でそれらの認証を受けている農家は一軒もない」と指摘し、一区画六ヘクタールもの広大な農地で環境保全型・有機農業ができると考えているなら、先進地の事例を示すよう求めました。

 「県はそういっています」。吉次邦夫市長の答弁はそれだけでした。

 有機農産物は、農薬や化学肥料を使用しないで三年以上経過した畑で収穫した農産物のこと。

 元諫早農業高校教諭で農業経営を担当していた横林和徳さん(61)は「農薬を使わないということは、病害虫対策にたいへん手間ひまかかるということです。大型機械で効率よくできるとは考えられない」と指摘します。

 国や県は、中央干拓地内の営農試験用の畑では、十アール当たり春ジャガイモの収量が三千二百キロあったなどのデータを示し、一戸当たり七百万円―八百万円の所得が可能と宣伝してきました。

 問題は入植する農家が試験用地と同じ労力や経費をかけられるのか、ということです。

 木村市議は、県の昨年度の予算では「三ヘクタール当たり五千二百八十万円を支出しており、六ヘクタール(一区画)当たり一億五百六十万円にのぼる莫大(ばくだい)な経費になる」と指摘。「こうした経費をかけた営農を一般の入植農家が実行できると考えているのか」とただしました。市側は答弁に窮しました。

 自民党農政のもとでは農業経営がそもそも困難なのです。

 横林さんは「農産物の輸入量の増加で生産者価格は低落の一途です。その結果、耕作放棄地が二〇〇五年には諫早市内でも千二百四十ヘクタール、干拓農地七百ヘクタールの一・八倍にもなる」と指摘します。

無駄遣い

 千二百四十ヘクタールのうち、着工翌年の一九九〇年から〇五年までの耕作放棄地は六百四十四ヘクタール(年平均約四十ヘクタール)。驚くのは、〇六年の予測値も含めると干拓工事期間中に諫早市の耕作放棄地が、干拓事業で生み出される七百ヘクタールとほぼ同じになることです。

 二千五百億円余の巨費を投じて造った耕地と、放棄された耕地の面積は同じ諫早地域で差し引きゼロになるというわけです。無駄遣いを絵に描いたようなあまりにひどい話です。

 そのうえ、干拓地の営農が始まれば、周辺地域とほぼ同じ農産物を出荷することになり、周辺農家の経営を圧迫すると心配されています。

 諫早湾干拓事業は、有明海沿岸住民の漁業や農業を衰退させ、地域経済を疲弊、地域コミュニティーや人間関係を破壊してきました。事業終了後も調整池の水質改善事業などの事業関係費が住民を苦しめることになります。

 こうした事態を立て直し、有明海に未来を開くには、水門開放など抜本的な対策が求められています。

 (ジャーナリスト 松橋隆司)(第2部おわり)