2007年5月16日(水)「しんぶん赤旗」

諫早湾閉め切り10年 第2部

まやかしの公共事業(6)

リース配分固執の謎


写真

(写真)農地の配分が問題になっている中央干拓地=3月に撮影

 干拓事業で造成された農地の配分をめぐって問題が起きています。

 長崎県は、農業振興公社に干拓農地を全部買い取らせて、入植希望者にリースする方針です。これが問題の発端です。

 「干拓農地のリース料は年間十アール(千平方メートル)当たり二万円」。長崎県は三月下旬、国営諫早湾干拓事業で造成された農地への入植者の公募基準を発表しました。八月までに入植者を公募し、年内に決定、来年四月から営農を開始する予定です。

県と同一

 不思議なのは、買い取り希望者がいるのにリース方式にしていることです。

 県と国が行った営農意向調査では、買い取り希望者の合計面積は百九十二ヘクタール、「買い取り・リースいずれでもよい」とする人の合計は七百二十五ヘクタール。合わせれば九百十七ヘクタールで、干拓農地の面積七百ヘクタールを上回る買い取り希望があったことになります。

 それが事実なら長崎県は公社に干拓農地をわざわざ買い取らせる必要もないわけです。

 干拓農地全部の値段は、五十三億円。公社が政府系金融機関から調達して購入、元金の償還に必要な資金は、県が公社に全額貸し付けます。

 土地改良法では、長崎県が国から直接農地の配分を受けることはできません。このため県は昨年度、公社に五百三十万円余を支出して、公社が農地配分を受けられるよう形式を整えました。しかし、実質的にみるなら公社は配分を受けるための長崎県のダミーであることは明らかです。

 公社は100%県が出資しており、県と同一の団体とみることができます。このため、長崎県民七十六人が昨年八月、「公社の事業は土地改良法に違反するまったく必要性のない事業」だとして県に公金支出差し止めの訴訟を起こしました。

 これに先立つ同年六月、同趣旨の住民監査請求を提出しましたが、監査結果は、踏み込んだ判断もなく「違法性はない」としたため、提訴したものです。

困難知る

 干拓農地のリース配分に、県がそれほどこだわるのはなぜか?

 県の表向きの説明は、「農地を購入後、後継者がなく耕作を放棄されたり、切り売りされても困る。そこでリース方式にし、五年ごとの更新制度を設けたので不適格なものを除くことができる」としています。

 原告代表者の高村暎(あきら)さん(66)は、「県がリースでなければうまくいかないと考えたからです」とのべ、次のように指摘します。

 「干拓農地が売れずに余ってしまうと法的には事業がいつまでも完了しないことになります。今年度中に事業を終わらせたい国も県もそれでは困るわけです。実際は、国も県も干拓地の営農の困難さをよく知っているのです」

 事業目的にいう「収益性の高い優良農地の実現」どころか、干拓地の営農は秋田県の八郎潟でも岡山県の児島湾でもどこも困難なのが現実だからです。(つづく)