「しんぶん赤旗」2006/9/14〜15
在来線が消える/新幹線長崎ルート
通勤・通学の足℃cして

 佐賀市と長崎市を結ぶ九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)計画が、両県民を巻き込んで大きな地域問題に発展しています。在来線の長崎本線が廃止になる∞新幹線は本当に必要か≠ニ、猛反発する自治体を歩いてみると、長崎新幹線建設の道理のなさが浮かんできます。
 (長崎県・田中康、佐賀県・平川明宏)



 長崎本線は、特急の止まる肥前山口駅(佐賀・江北町)から肥前鹿島駅(同・鹿島市)を経て、長崎県諫早市まで有明海沿いを通ります。内陸部を通る長崎新幹線の着工計画は、この肥前山口駅(佐賀・江北町)から諫早までの区間をJRから経営分離することが条件になっています。

大変便利です
 肥前山口駅と肥前鹿島駅の間にある肥前白石駅(佐賀・白石町)(写真)は二つの高校があり、「高校生だけでも毎日のべ二百五十人が乗り降りします。通勤・通学の足として、一日の乗客数は平均千百人」(駅長)です。
 毎日、佐賀市内の高校に通学する男子高生(18)は「駅が家のそばだから、大変便利です。在来線はずっと残してほしい。ここを利用する人はみんなそう思っていると思う」と話します。
 駅前で飲食店を長年営む店主は、「在来線は残してほしい。私だけじゃない、この辺の住民はそう思っている。なにしろ、子どものころから線路を見ながら育ってきたからね。廃線にでもなったらポッカリ胸に穴が開く感じだ」と語ります。
 役所に「住民の足・長崎本線を守ろう」と書かれた看板が掲げられた鹿島市。「長崎本線在来線の存続」を公約し、四月に五選を果たした桑原允彦鹿島市長は、「(新幹線は)住民が犠牲を払うだけの値打ちがある事業とは思えない」「新幹線は、県民や市民の同意が得られていない。経営分離された第三セクターでは赤字で(在来線は)廃線となるかもしれない。利用者の利便性が損なわれ、地域がさびれるとわかっているものだ」と、明快です。
 日本共産党の鹿島市委員会がおこなった市民アンケートの回答(八月末で四百十一通)でも、「建設に反対」が90%と「賛成」3%を圧倒しています。
 一方、長崎県は知事を先頭に新幹線推進に動いています。この八月、金子原二郎知事や県内の商工会議所などが相次いで古川康佐賀県知事を訪ね、「地域活性化に新幹線が必要」「いつまでも引き延ばさないで」と建設促進の圧力をかけました。当初、「建設は沿線の全自治体の同意がなければ杭(くい)一本打たせない」と沿線自治体に明言していた古川佐賀県知事は、「地元と協議し、一日も早く同意が得られるように努力」するといいだしています。
 長崎県内の諸団体も「長崎本線存続」を主張する鹿島市や江北町を訪れ、新幹線着工への早期合意を迫りました。

おわびの手紙
 「なぜ長崎の人に『新幹線を通せ』と言われんばいかんのでしょうか」と鹿島市内のレストランの主人はいいます。
 同市の幹部職員の一人は、「雲仙や島原からまで来られてびっくりしました」と首をかしげながらいいます。「新幹線をつくれば、何となく客が増えて長崎が元気になると思っておられるようです」「『西九州の一体的発展のため』と抽象的な話ばかり。諫早で何人の観光客が増えるのか、今後の県民負担はどうなのか、検証された話がない」と。
 長崎新聞が実施した県民アンケート(一月)では、45%が「長崎ルート不要」と答えています。「必要」は36%です。
 鹿島市役所には、「長崎本線を守って」と訴える手紙が多く届き、長崎県内からの手紙も目立つといいます。「県民の多くは反対していることを伝えたい」「(長崎県が)迷惑をかけています。恥ずかしいです」といった声です。

通過駅になる、メリットなし

 長崎新幹線についての党鹿島市委員会のアンケートに九割の人たちが「建設反対」と寄せた理由は―。
 「新幹線建設断念を。巨費を注ぎ込むなら、ほかにどんなことができるのかもっと議論して」(五十歳代・女性)
 「新幹線着工より、シャッター通りの商店街を元気にするのが先ではないでしょうか。買い物をするにも、魅力のある他市に行く人も多くいるから」(三十歳代・女性)
 「もったいない。(新幹線で)負債を抱え込まなくともいい、もっと県民全体のことを考えてもらいたい。魅力ある町づくりが大事なのでは」(六十歳・男性)など。
 巨額な税金をかけて建設する長崎新幹線。特急に比べても、博多―長崎間で二十三分短縮するだけ。地域住民にどんな利便性をもたらすのか。推進派は回答を示せずにいます。
 どれほどの住民負担になるのでしょうか。
 二千七百億円の総事業費は武雄から諫早までです。長崎延長でさらに必要です。佐賀、長崎県民は建設費の地元負担分だけでなく、経営分離された第三セクター鉄道の維持管理費(年間二億三千万円)と、赤字になった分を毎年負担させられることになります。
 建設に反対する江北町の田中源一町長は「町の発展にとって、佐世保と諫早行きの分岐駅となっている町内の肥前山口駅は重要です。しかし、新幹線を建設すれば通過駅となって将来は止まらなくなるでしょう。佐賀県側は二千七百億円の建設費をかけても、わずかな時間短縮ではメリットもない。今、本当に新幹線は必要があるのか。地域活性化を言うなら、建設するしないにかかわらず、県は自治体への振興策を実施するべきです」と話します。

代案にならず
 佐賀県は在来線のJRからの経営分離に伴う赤字対策として、「線路・駅舎の維持管理を佐賀、長崎両県が行う。運行は肥前山口―肥前鹿島をJR九州で、鹿島―諫早までが第三セクターとする」などの「代案」と地域振興策として、有明海沿岸道路や鹿島武雄道路の建設を鹿島市に提示しました。
 しかし、鹿島市の桑原市長は佐賀県の代案や振興策について「道路整備は五年、十年の視野。経営分離を受け入れて第三セクターになれば在来線は永久に地元に戻らない。子々孫々に残すという私たちの願う代案にはならない。佐賀県側の赤字負担を長崎県が担うと古川知事は言われるが、長崎県民の合意は得られているのでしょうか」と反論します。

町民6割反対
 日本共産党の仁比聡平参院議員は八月、桑原鹿島市長、田中江北町長と懇談しました(写真) 。仁比議員と固い握手を交わした田中町長は「町がおこなった新幹線建設問題の町民アンケートには六割が『必要ない』と反対しています。私も無駄な大型公共事業はやってほしくない」とのべました。
 桑原市長も「納得できない経営分離には反対を貫く」と語りました。仁比議員は「在来線を守ることが必要だといえる状況を政治の舞台でつくり出すようにがんばりたい」とエールを交わしました。
 住民団体と共同し、五千人分の存続を求める署名を県に提出するなど、党派や立場を超えてとりくむ日本共産党の松尾征子鹿島市議は「県は何が何でも建設ありきが本音です。県民や市民の多数が望む『在来線存続』に力を尽くすのが県の仕事」と語ります。