「しんぶん赤旗」2023/6/29

基地の街を歩く 長崎・佐世保

 長崎県佐世保市の名所・弓張岳(ゆみはりだけ)展望台に立つと、眼下の岸壁に灰色の艦船が停泊していました。米海軍佐世保基地の強襲揚陸艦です。佐世保湾に面して日米の軍事施設があり、海上自衛隊の護衛艦も見えます。岸田文雄政権が敵基地攻撃能力の保有と基地の強靱(きょうじん)化を進めるもとで、日本有数の軍港都市の現状と人々の思いを取材しました。(丹田智之)

 「自衛隊が米軍の傘下に入ることで、機動的な作戦が組める体制になっている。佐世保が敵基地攻撃の前線基地になり、真っ先に反撃されかねない」

市民知らぬ間に

 そう警鐘を鳴らすのは、佐世保市平和委員会の弦巻(つるまき)信幸会長(75)です。佐世保に配備されている海自のイージス艦4隻には、射程1600キロの長距離巡航ミサイル「トマホーク」が搭載される計画です。弦巻さんは「攻撃型の艦船に改変する動きが安保3文書に基づいて急速に進んでいる。そのことに多くの市民は気付いていない」と危機感を示しています。

 

 強襲揚陸艦部隊の拠点となっている米海軍佐世保基地は、燃料や弾薬を補給する機能も備えています。佐世保弾薬補給所(前畑弾薬庫)は市街地から近く、70メートルほどの距離に民家があります。自然災害による爆発の危険もあり、住民らが撤去と返還を求めています。

 

 近くに住む男性(69)は「貯蔵されている弾薬の種類や危険性について、米軍は住民に知らせない。事故が起きたら家ごと吹き飛ばされるのではないか」と懸念しています。

 

平和宣言実現を

 日本共産党佐世保市議の小田徳顕(のりあき)さん(42)は「市は1950年の平和宣言で、港を平和と人類の幸福のために活用する方針を示した。抑止力を口実に基地の拡大・強化が進む中で、その原点に立ち返る市政の実現を求めていきたい」と述べています。

 

日本版海兵隊の拠点

 長崎県佐世保市の相浦(あいのうら)地区には、日本版海兵隊と称される陸上自衛隊水陸機動団が拠点を置く相浦駐屯地があります。

 防衛省は12日、佐賀空港(佐賀市)の隣接地で陸自駐屯地の建設工事に着手。佐賀に垂直離着陸輸送機オスプレイ17機を配備し、相浦駐屯地で隊員を乗せて海上や離島での軍事作戦を展開する計画です。同駐屯地にオスプレイが飛来すれば騒音が激化し、住民の生活にも影響します。

 

署名集めに激励

 相浦地区に住む新日本婦人の会佐世保支部の眞如(しんにょ)詠子さん(75)は、安保法制(戦争法)反対の署名を集めると、子や孫が自衛官だという人から「本当はすごく心配です。がんばってください」と激励されたと振り返ります。

 眞如さんは「米海兵隊との共同訓練に参加する水陸機動団は、有事の際に最前線で激しい戦闘を行う部隊。軍事的緊張を高める動きがエスカレートし、隊員の家族が不安になるのは当然だと思う。中国や北朝鮮の問題は平和的に解決してほしい」と語ります。

 岸田文雄政権は、日本への武力攻撃で国土が戦場になることを想定し、全国の自衛隊施設を強靱(きょうじん)化する計画を示しています。佐世保市内の9施設も対象になっています。 

 佐世保市基地政策局の北村敬男局長は、政府が進める軍事費の増額や基地機能の強化について「地元経済界も賛同している。自衛隊の増強や抑止力の向上を理解する市民も多く、受け入れざるを得ない」と説明します。一方、他国から攻撃を受ける事態は「現実に起こるという想定はしていない」といいます。

 

予算は平和的に

 佐世保駅から近い旧戸尾小学校の校舎には、佐世保空襲の惨禍を伝える資料館があります。同空襲では1945年6月28日から29日にかけ、米軍が焼夷(しょうい)弾など約20万発(1300トン)を投下。市街地を焼き尽くし、死者は1200人を超えました。

 

 空襲を体験した辻一三元市長(故人)は記録集『火の雨』で「戦争の悲劇をいやというほど思い知らされた」「もう二度とこのようなことがあってはならないと思う。どんな場合でも、人間同士が殺し合う戦争を絶対にしてはならない」と述べています。

 

 同資料館を運営する「佐世保空襲を語り継ぐ会」の木原秀夫代表(78)は「『やられる前にやれ』という論理が一定数の国民に浸透していることに危うさを感じる。戦争を始める前に悲惨な結末になることを想像するべきだと思う。国の予算は攻撃型ミサイルの購入ではなく、平和的に使ってほしい」と話しています。