「しんぶん赤旗」2023/6/23

諫早湾干拓事業の干拓農地営農者訴訟

 国営諫早湾干拓事業の干拓農地(長崎県諫早市)に入植した営農者(3法人・1個人)が、調整池があることで起こる冷害やカモの食害、排水不良などにより甚大な被害を受けたとして、国、県と県農業振興公社に対し、損害賠償や潮受け堤防排水門の開門を求めた訴訟が今月末、長崎地裁で判決を迎えます。

 裁判では優良農地だとのふれこみに莫大な投資をして入植した農業者たちが、話とは全く違う欠陥農地に苦しめられた実態が明らかになりました。原告の1人、「有限会社匠(たくみ)集団おおぞら」の荒木隆太郎さん(75)=南島原市=もその一人です。

 入植前の荒木さんは多い時で50人の従業員を雇って南島原市内で施設園芸を営み、年間の売り上げは10億円に達することもありました。ただ、農地が点在していたため効率が悪く、諫早湾干拓地の話を聞いた時は、広くて平坦な土地で効率的な農業を営めると期待に胸を膨らませました。中央干拓地の営農支援センターでの事前の栽培実証実験では全く問題はなく「これだったらうまくいく」と確信。2008年に約36fでじゃがいもや玉ねぎなどの栽培を始めました。

 しかし、実証実験の農地とは全く違い水はけが非常に悪く、1年目は道路まで水が溜まり、じゃがいもは中身が腐って皮だけに。畑が乾燥せずハウス栽培のトマトやキュウリも根が腐ってしまいました。普通の畑にはないような、ヨシやセイタカアワダチソウなどの雑草にも苦しめられ、試行錯誤しているうちに5年が過ぎてしまいました。

 荒木さんは入植するにあたり、野菜の保存庫や農機具購入など設備投資に必要な2億円余を、自己資金と金融機関からの借入金や補助金などで都合をつけました。その後も干拓農地での農業を続けていくつもりでしたが、公社は「リース料の滞納があるから次の契約(5年単位)はしない」と一方的に通告。干拓農地から追い出され、多額の負債を抱えることになりました。

 南島原の自宅不動産、農地、ハウスなどは競売にかけられ、今まで築いてきたものが何もかもなくなりました。妻とも離婚。5人の子どもたちとの楽しかった暮らしは壊され、今は一人暮らしです。

判決を前に荒木さんは怒りを込めて訴えます。「農業は5年ぐらいでは結果は出ない。国、県、公社の宣伝に優良農地だと信じ切っていたが、実際はろくに収穫もできないひどい土地だった。収穫が思わしくない時も、県や公社から生産者に寄り添った適切な指導は一切なかった。あまりにひどい、鬼のような仕打ちだ」

 判決は6月27日に言い渡されます。