「しんぶん赤旗」2023/1/19

被爆体験者の救済否定
長崎「黒い雨」報告で厚労省

 国の指定地域外で原爆被害に遭い、被爆者と認められない長崎の「被爆体験者」の救済に向け、県の専門家会議が「黒い雨」被害の報告書を提出したのに対し、厚生労働省は16日、「降雨の客観的記録がないことは、過去の訴訟の判決で確定している」などとする見解を発表しました。

 原爆による放射能により健康被害が生じることを否定できない場合には被爆者と認めるとした広島高裁判決(2021年)を受け、国は、広島の「黒い雨」被害者に対し条件付きで被爆者健康手帳の交付を始めました。

  長崎県は救済指針から切り離されたため、県が独自に専門家会議を設置。22年7月、厚労省に放射線を含んだ「黒い雨」やチリが降ったと認定する報告書を提出していました。

  厚労省は、過去の被爆体験者訴訟を示し、報告書と矛盾すると指摘。報告書をもって、被爆体験者を広島と同様に「原告と同じような事情にあったと認められる者」の対象とすることはできないと否定しました。

 厚労省は、「黒い雨」広島高裁判決を受け入れたにもかかわらず、救済指針に11疾病要件を持ち込み、「同じ事情にあった者」から長崎を切り離し、昨年12月に被爆体験者支援事業の内容に7つのがんを追加。今回、長崎県の報告書を否定しました。

 広島高裁判決は被爆者援護法の運用をめぐり下された行政訴訟です。広島と長崎の原爆地域の違いで運用に差別があってはならず、すべての原爆被害者救済が求められます。

関係団体が抗議

 被爆体験者の団体「被爆地域拡大協議会」と、被爆体験者訴訟にかかわる長崎県保険医協会の本田孝也会長は18日、それぞれ県の専門家会議報告書に対する国の見解に抗議する声明を出しました。

  拡大協は、厚労省が報告書を全面的に否定する見解を発表したことに憤りをもって抗議。再び被爆者をつくらない国の証しとしてすべての原爆被害者に被爆者健康手帳の交付を求めるとしています。

 本田氏は、広島高裁は黒い雨に遭ったことから放射性降下物による内部被曝を受けたことが否定できないことをもって被爆者と認定したと指摘。国は報告書を受け入れ、被爆体験者を被爆者と認定するための方策を県、市と検討するよう望むとしています。