「しんぶん赤旗」2016/02/21
諫早開門問題
和解協議難航問題どこに
「開門せず」前提では進めない
 国営諫早湾干拓事業による諫早湾の閉め切り堤防の開門を命じた判決が確定してから5年。国はいまだに開門していません。これは「異常な事態」だと裁判所が和解に動きましたが、示された和解勧告は開門なしの内容。和解協議は最初から難航しています。「よみがえれ!有明訴訟」の馬奈木昭雄弁護団長に聞きました。
(ジャーナリスト・松橋隆司)


「よみがえれ!有明訴訟」弁護団長 馬奈木昭雄さんに聞く

 長崎地裁と福岡高裁から昨年末の同時期に和解勧告が出てきました(※)。私たちは和解による解決は大歓迎で、地裁には何度も和解の労をとってくださいとお願いしてきたのにとりあってくれませんでした。その地裁から突然、和解の話がでてきたので、今風にいえば、びっくりぽんでした。

 長崎地裁で昨年12月に和解へむけた非公開の協議がありました。私たちは「開門する、しないのどちらかの結論を裁判所が最初に言ったら、どちらもその場で席を立つことになりますよ。まず論点整理をやれば、解決の道がでてくるのではないですか」と裁判所には再三伝えていました。

 ところが、長崎地裁の和解勧告は、開門しないという結論を最初に示した。開門しない代わりに、漁業環境を改善する、漁業者には解決金を支払うという。私たちは、ふざけるな、という気持ちにさせられました。裁判官には強くいいました。「結論を先に出したら席を立つと、なんべんも言いましたよね」と。

悪くなるばかり
 裁判所は、開門でも非開門でもない第三の道だといっていますが、開門しないことに変わりありません。漁場改善の再生事業は有明海特措法以来12年間もやってきました。効果がないどころか、悪くなるばかりです。「何か効果があったというなら言ってください。さんざん言い古された漁場改善事業を新しい第三の道だというのはあまりに不勉強だ」と申し上げました。裁判長は黙して語りません。最後に一言、「検討させてください」と。3月1日に示される検討結果が同じなら私たちは席を立つことも検討せざるを得ません。

 干拓地の農民は開門すれば被害が出ると反対しています。開門すれば、調整池に海水を入れるので、農業用代替え水源が必要です。給水タンクの設置など対策をとれば農業用水は確保できること、開門のやり方によって塩害なども防げることなど、長崎地裁の決定文書でも国が福岡高裁に提出した上告理由書でも明らかにされています。

 その長崎地裁が、農業被害は防げるという議論をしないで、開門しないというのは、非常におかしいです。

国の態度も問題
 もっとおかしいのは、国の態度です。

 私たちは、国との意見交換会を2月3日にもちました。福岡高裁に国が提出した理由書には農業被害を起こさない対策事業は可能だと述べています。それなら長崎地裁にも同様の理由書を提出すべきではないかと、強く求めました。しかし、国は提出するといわず、「開門、開門差し止めのいずれの側にも立てない。和解という新しいステージで裁判所の進め方を見ながら接点を探っていきたい」と繰り返すだけでした。国は、自ら招いた責任を棚に上げ、和解勧告を絶好の機会にして開門しない方向で取り組む決意をしたともみられます。開門しなければ、ノリ養殖などへの漁業被害は続きます。被害者がいる限り、私たちはたたかい続けます。世論にも訴え、開門するまでたたかう腹を固めています。

 (※)長崎地裁では、干拓地農業者が求めた開門差し止め仮処分を決定、その本訴が係争中。福岡高裁は、国が制裁金の異議を申し立てた請求異議控訴審。高裁はこれまでも和解協議を提案してきましたが国は拒否してきました。