「しんぶん赤旗」2016/01/13
長崎・石木ダム訴訟
国に問う「個人の尊厳」
県が地権者の土地・家屋を強制収用
 長崎県と佐世保市が長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)郡川棚町に計画している石木ダムをめぐり、地権者らは古里を守るため40年来たたかい続けています。県は、反対地権者13世帯のうち4世帯の田畑や家屋の強制収用を開始。地権者らは昨年11月30日、やむを得ず国を相手に事業認定の取り消しを求めて、行政訴訟を長崎地裁に起こしました。馬奈木昭雄弁護団長に聞きました。
(ジャーナリスト・松橋隆司)

馬奈木昭雄弁護団長に聞く
 このダムは本当に必要なのか。誰のためのダムなのか。地権者が問い続けても、納得できる説明が聞けません。地権者にとってみれば、先祖伝来の土地や家屋が奪われる。それだけではありません。そこには、ホタル舞う里山の美しい自然があり、人としての営みがある。文化がはぐくまれ、末代までこの地で生活したいという願いがある。それを根底から奪われ、個人の尊厳が踏みつぶされる。たいへんなことです。

過大な需要予測
 それでもダムを造らざるを得ない事情があるのなら、知事は頭を下げて何度でも地権者と話し合うのが当たり前のことです。ところが、地権者の土地、家屋を取り上げる代わりに、代金を払ってやる、金の話し合いならやりましょうという態度です。知事はいつから不動産屋になったのかと思います。こんなことを許すことはできません。
 公共事業で地権者の権利を制限できるのは、公共の福祉にかなう場合だけです。石木ダムの必要性の程度と先祖伝来の土地と生活を守ろうとする地権者の権利を比較したら、どっちが重いか明らかです。
 石木ダムは、佐世保市の安定水源と川棚町流域の治水も兼ねた治水と利水が目的です。治水面はすでに川棚川が氾濫しないよう改修されています。より対策が必要なら、追加改修すればよいことです。利水面は、佐世保市の需要予測が過大で、学者から「極め付きの虚構」と指摘されているほどです。給水量は減少傾向が続いており、客観的にみてもダムは必要ないのです。
 提訴しましたが、結果がでるまで時間がかかります。この間の工事を止めるため、昨年12月25日に、係争中の石木ダム事業執行停止を長崎地裁に申し立てました。
 さらにこの行政訴訟とは別に、県と市を相手に工事差し止めの仮処分の申請をしたいと考えています。差し止め仮処分に勝てば、工事は一発で止まります。そのために、ありとあらゆる手立てを尽くして頑張っていきますが、何と言っても世論の支援が必要です。

事業を認めた国
 石木ダムの問題は、反対地権者が現存している中で、土地家屋を奪うという、極めてまれな例で、全国的にも注目されています。こういうことを全国の先例として許すことはできません。
 県の背後には、この事業を認めた国がいます。国は戦争法が憲法違反でもどうでもいい、恥ずかしいとも思わない。そういう態度です。この不要なダム事業に多額の税金をつぎ込むなんて「おかしいよ」、「まともな社会にしたいよね」。そう思っているたくさんの人たちに原告になってもらいたいと願っています。
 規模の小さなダムですが、個人の尊厳を守る、主権在民をかけた大きなたたかいなのです。


石木ダム 当初事業計画の国の認可は1976年。貯水容量548万立方メートル、堤体高55・4メートル、ダム本体工事費285億円。関連事業費を含めた総予定額は現時点で538億円とされる。