「しんぶん赤旗」2015/10/21
長崎・石木ダム建設が問うもの
住民追い出し生存権・人権侵す
遠藤 保男

 長崎県と佐世保市が川棚町の川棚川支流石木川に石木ダム建設を進めています。計画が持ち上がったのは1962年。水没予定地には現在、13世帯が50年来、「ここに住み続けたい」「必要性のないダムに生活の場を明け渡すことは拒否します」と主張して生活を続けています。



体張って地域と
自然を守り抜く


 長崎県はダム事業の既成事実化をはかるために、付け替え道路工事を試みていますが、13世帯と支援者は今年の5月から毎日、「説明が先だ。工事は止めろ」と工事現場前などで座り込みの阻止行動を続けています。体を張って、地域社会と自然を守り抜いています。その原動力は自分たちの居住地への愛着であることを13世帯が教えてくれます。

 ダム計画は「治水・利水」を掲げています。しかしこれまでの洪水は、河川改修が進んだので石木ダムなしで防げると県自身が認めています。佐世保市の上水道用水は今でも十分あり、建設の必要性はありません。

 2009年の民主党への政権交代までは長崎県と佐世保市は13世帯の皆さんの堅い団結には手を出せずにいました。

 「コンクリートから人へ」を合言葉にした政権交代で、ダム事業の総点検が始まることになりました。当初は各事業計画について、必要性からしっかりと見直すものと思われていました。「石木ダムは佐世保市の水事情が改善されているし、治水目的もほぼ達成されているので不要」という結果が出るのを私自身も期待しました。一方、ダム建設に固執する長崎県と佐世保市は同年11月、国に事業認定を申請するほど危機感を募らせていました。

 ところが総点検の結果は惨めなものでした。点検方式は必要性の見直しを軽んじて、「残事業費重視」とすることで「従来のダム計画が最も安上がり」という結論を誘導する仕組みになっていたため、石木ダムも「ダム事業推進」という結果になってしまいました。それを受け、事業認定審査業務が加速し、2013年9月6日に事業認定されました。

公共事業の是非
居住者の決定で


 事業認定されても13世帯はひるむことなく反対を貫いています。長崎県と佐世保市は13世帯排除の途をまっしぐらに走り、今年の8月24日には農地4件を収用。このままでは、13世帯の住居が取り壊されてしまいます。何としても阻止しなければなりません。

 水事情の改善にもかかわらず佐世保市の朝長市長は、約20年の大渇水を持ちだして「石木ダム必要」を説いています。長崎県は「河道の整備が進んだので、戦後のすべての洪水が再来しても氾濫しない」といいながら、「100年に1度の大洪水対応を目指す」と根拠のない数値を掲げて建設の立場をむき出しにしています。仮にそのような洪水が来たとしても、県の計画通りに河道が整備されると氾濫せずに流下します。

 必要性のないダムのために住んでいる人を追い出す。これは憲法が保障する生存権や基本的人権の侵害です。行政の身勝手を通させてはいけません。

 住民の理解・合意を得られぬままに強行する事態は石木ダムだけではありません。全国の多くのダム建設事業、国営諫早湾干拓事業、米軍基地のための沖縄・辺野古の埋め立て…。急務なのは「公共事業は住民が決める」システムの構築です。石木ダム建設阻止のたたかいがその象徴といえるでしょう。

 (えんどう・やすお 水源開発問題全国連絡会共同代表、石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会連絡責任者)