「しんぶん赤旗」2015/09/23
有明の海再生へ
諫早開門の展望
 国営諌早湾干拓事業(長崎県)潮受け堤防の閉め切りによる有明海の深刻な漁業被害は、開門への努力を怠る国の姿勢の下、放置されたままです。この間、開門請求を棄却する不当な司法判断が示される一方、裁判所が現状打開への努力を国に求めるなど、開門への展望は決して閉ざされていません。有明海再生をめぐるたたかいの現状を追いました。

 「堤防閉め切り前には1回の水揚げで140キロ以上取れていたイイダコが、今は4分の1ほどしか取れん。船の油代を差し引くともうけは残らんから厳しかよ」。夏場に盛期を迎えるタコ漁で主に生計を立てる有明漁協組合長の松本正明さん(63)=長崎県島原市=は語ります。

つづく漁場環境の悪化

募る将来不安
 2010年に福岡高裁で漁業被害を認められ、開門調査を国に命じる確定判決を勝ち取った原告の1人。一緒に漁に出る36歳の息子は、勝訴原告の中に漁を廃業する組合員が出たこともあり、将来不安を募らせているといいます。

 松本さんは「ちょうど堤防が閉め切られたころ、息子が高校卒業で、就職の内定した会社を断らせて無理やり(漁業に)残らせたっとよ。まさか、こげんなっとはね」と話、視線を落としました

 佐賀県沖では8月下旬から赤潮が発生。ボラやスズキなどが死んでいるのが3年ぶりに確認されました。漁業環境の悪化は継続し、冬のノリ養殖に向けて準備を始める漁業者らの中には、今期の不作を心配する声も高まっています。

裁判所“国に解決の責任”

 14日、猶予期間3年を超えてなお開門調査の実行を拒み、制裁金の支払いを科せられている国が、「間接強制」を執行しないよう求めた請求異議訴訟控訴審の公党弁論が福岡高裁(大工強裁判長)でありました。

 弁論後、高裁は解決への話し合いを行うかどうか、漁業者側と国側に意向を打診。漁業者側が賛同した一方、漁業者側弁護団によると、国側は応じない意向を示した上、持ち帰っての検討を促した高裁の再説得すら頑として拒否したといいます。

 「よみがえれ! 有明訴訟」弁護団の馬奈木昭雄団長は、裁判所の姿勢を評価しながら、国の態度を「国民だけでなく裁判所の声にも背を向け、何が何でも開門しないという異常なもの」と強く非難しました。

 この間、開門をめぐるいくつかの訴訟で示された開門請求の棄却という確定判決とは相反する判断を口実に“板挟み”状態を装い、あくまで開門義務に背き続ける国。7日には、諌早湾内の漁業者らが開門を求めた訴訟の控訴審判決でも、同じ福岡高裁が請求を退けたばかりでした。

協議働きかけ
 その高裁が今回なぜ協議を強く働きかけたのか―。7日の判決は付言で、「国には現在の困難な状況を打開するために必要な最善の方策を自ら早急に決定して、その実現に向けて努力を尽くすことが求められている」と指摘していました。協議の可能性を追求する裁判所の立場は「解決する責任は国にこそある」とするこの付言に沿ったものとみられます。

 馬奈木団長は「開門棄却の判断が出たところで確定判決はいささかも揺るがない。われわれの主張を裁判所も正しいと考えているからだ」と強調。国民の利益に背を向けた理不尽な姿勢を続ける国を許さず、漁業者や支援者に「いまこそ日本国中から開門を求める世論を巻き起こそう」と呼びかけました。