「しんぶん赤旗」2014/02/21
諫早湾開門期限から2カ月
司法無視する国に制裁金を
漁民新たな裁判
“漁獲激減もう限界”
 国営諫早湾干拓事業は、確定判決(福岡高裁)によって潮受け堤防排水門(長崎県諫早市)の開門期限が昨年12月20日とされていましたが、国・農林水産省が開門しないまま2カ月たちました。司法を無視する憲政史上初の異常事態です。干拓事業による深刻な漁業被害に苦しむ「よみがえれ!有明訴訟」原告の漁民は「国の開門サボタージュを許さない」と新たなたたかいをすすめています。

 「今の不漁があと2、3年続けば漁協の存続自体が危うくなる」。こう話すのは、1997年の堤防閉め切り後に主要漁獲物のタコ類が1割未満、イカ・エビ類が4割〜2割に激減したという有明漁協(島原市)の松本正明組合長(62)です。開門判決は、松本組合長ら有明訴訟原告が8年近い裁判闘争で勝ち取ったもの。原告は昨年12月24日、開門を促すため、期限翌日の21日、1日1億円の制裁金を科すよう佐賀地裁に申し立てました。

先延ばしする国

 これに対し、国は「開門できる状況になかった」として、漁民らの申し立ての「却下」を求め佐賀地裁に提訴しました。

 国が「開門できない」理由にしているのは、昨年11月12日に長崎地裁が決定した開門差し止めの仮処分。国は、開門命令と差し止め仮処分の「二つの法的義務の間でさいなまれている」と開門を先延ばししています。

 差し止め訴訟は、2011年4月に干拓営農者らが「開門すれば農業用水に海水が流入し、営農が困難になる」などとして提起。今年2月4日には仮処分決定を根拠として、「開門した場合」に制裁金2500億円の支払いを国に求め長崎地裁に申し立てました。

 国は、開門差し止め仮処分決定にも異議を申し立て、形の上では賛成・反対双方と争っています。しかし、有明訴訟の馬奈木明雄弁護団長は、反対派と国の裁判を「無気力相撲」と批判します。国は開門差し止め訴訟で、開門調査の前提である「漁業被害の発生」を主張しませんでした。

 「農業用水の喪失」など、開門に伴う被害が出ないよう福岡高裁が求めた対策工事もこの3年間、開門反対派の妨害を理由に着手していません。馬奈木氏は、「『開門すれば農業に被害が出る』と主張する反対派が対策工事を妨害するのはおかしい」と国側の言い分の矛盾を突きます。

有明海回復こそ

 松本組合長は、かたくなに「開門反対」を言い続ける長崎県の中村法道知事にも「県民の生活を守るのが知事の役割ではないのか」と怒りを隠しません。

 有明訴訟の原点は「有明海異変からの回復」。農漁業共存、防災も成り立つ開門の早期実現をめざす有明訴訟弁護団は▽開門差し止め仮処分決定を異議申し立てで覆す▽福岡高裁・長崎地裁の開門請求訴訟で勝利―などが必要だとしています。

 「この10年、新しく組合に入った後継者はわずか数人。開門して、若い世代が希望を持てる『宝の海』を取り戻したい」。有明海沿岸4県漁民の願い実現のために、松本組合長はあきらめません。