「しんぶん赤旗」2013/12/12
長崎大 危険な病原体実験施設計画
観光都市に打撃
住民は「反対」、市民の会がビラ配布
 長崎大学の進める計画が波紋を広げています。エボラ出血熱ウイルスなど死亡率が高く治療法も確立していない病原体(ウイルス)を扱う実験施設を、約2万人が暮らす長崎市坂本地区に建設する計画だけに、住民はもちろん学内からも反対の声が上がっています。(長崎県・村ア利幸)

 問題の実験施設「BSL―4(バイオセーフティレベル4)」は、アフリカや南米にしか存在しない最も危険度の高い病原体4ランクを持ち込み、研究します。2002年から03年に中国で猛威を奮ったSARS(サーズ)コロナウイルスでさえもレベル3です。

 日本では、既に国立感染症研究所村山分室(東京都武蔵村山市)と理化学研究所筑波研究所(茨城県つくば市)の2カ所にありますが、いずれも住民や行政の反対を前にBSL―4としては稼働していません。長崎大学は2012年4月に候補地を発表。約50億円〜100億円の建設費用を見込み、建物はコンクリートで二重に密閉、実験室の排気もフィルターで99・97%の病原体を除去可能としています。

 長崎大学では、11月12日に教職員121人が賛同した反対声明文を片峰茂学長に提出しました。中心となった長崎大学バイオハザード予防研究会の勝俣隆代表(教育学部教授)は、@日本に存在しない病原体を持ち込むA外部への漏出を完全に防げないB長崎大学が率先して行う必要性がない―と指摘します。

 地域でも危険施設反対の声が上がりました。住民や労組・民主団体などでつくる「くらしと地域を考える長崎市民の会」(代表委員=吉田省三・長崎大経済学部教授)は11月26日、「危険な病原体実験場を造るな」のビラを配布。予定地近くに住む清水秀記さんは「福島原発事故の例もあり、危険な施設は人口密集地に造るべきではない」と話します。「市民の会」が3日に開いた学習会で、勝俣氏は「日本より安全基準が厳しいアメリカでも、実験室で注射針からウイルスが実験者の体内に入る事故、フィルターが外れてウイルスが漏れて死者が出たり、ウイルスが故意に持ち出されたりするなどの事故・事件が報告されている」と説明しました。

 大学側は「未解明の伝染病治療に貢献できる」「研究施設は安全」と主張します。しかし、実験施設を稼働すれば、病原体の漏出で伝染病がまん延するバイオハザード(生物災害)の危険は避けられません。勝俣氏は「万一バイオハザードが起これば、観光都市長崎は大打撃を受ける」と警告しました。

 「市民の会」は学習会や宣伝などを通じて計画の危険性を告発、反対署名にも取り組むとしています。

 バイオ・ハザード 生物災害。病院や研究施設内で、ウイルス(病原体)やウイルスに感染したものが施設外に漏出して起こる災害のこと。特性として▽原因の特定に時間を要するため、的確な原因排除の施策や治療法が取れない▽わずかな量でも一定の環境条件下で増殖し、感染拡大する可能性がある▽感染者本人が無自覚なまま他者に感染を拡げる―などの問題があります。