「しんぶん赤旗」2013/11/13
諫早湾干拓事業潮受け堤防排水門
開門差し止め決定 長崎地裁
 国営諫早湾干拓事業潮受け堤防排水門(長崎県諫早市)の開門に反対している干拓地営農者らが開門差し止めを求めた仮処分申請で、長崎地裁の井田宏裁判長は12日、開門実施に必要な対策工事を国が行っていないなどとして、開門差し止めを命じました。

 差し止める理由として、開門による調整池への海水流入で「農業用水を喪失」し、代替水源確保の工事などを国が行う可能性が「高いとは認められない」としました。工事は国が3度着手を試みましたが、長崎県など反対派の妨害で中止されています。

 堤防閉め切りに起因する漁業被害については「(国は)主張しなかった」としました。諫早湾干拓事業をめぐっては、国に開門を命じた福岡高裁確定判決(2010年12月)があり、堤防閉め切りと漁業被害の因果関係を認定しています。国は因果関係を認めていないものの、12月20日までに開門する義務があります。

 決定を受け、開門を求める「よみがえれ!有明訴訟」の馬奈木昭雄弁護団長は、長崎地裁に異議申し立てを行う意向を表明。「確定判決が正面から否定されたわけではない。国が開門義務を履行しなければ強制執行をかける」と語りました。開門反対派の山下俊夫弁護団長は、開門が実施されれば、差し止めの間接強制をかける考えを示しました。


国の12月開門義務は不変

解説

 「有明海再生をと漁民の切望した開門を命じた福岡高裁確定判決から約3年。国がこれまで開門準備を怠ったこともあり、長崎地裁は開門を差し止める仮処分決定を出しました。
 地裁の決定は、開門で調整池に海水が入り「農業用水を喪失」するとしましたが、代替水源確保の工事を妨害しているのは長崎県をはじめとする開門反対派です。県は「国は十分な対応を示さず、開門すれば農漁業に被害が出る」などと事実に反する主張で開門を妨害、和解協議も拒否してきました。国は積極的な反論や開門を進める対応をしていませんでした。
 12月開門について国は「差し止めの判断が出ても確定した法的な義務」(林芳正農林水産相)と明言しています。仮に履行しなければ前例のない異常事態となります。
 干拓事業・堤防閉め切りで漁業被害が起きたことは明白です。福岡高裁確定判決も「閉め切りと漁業被害の因果関係を肯定するのが相当」としました。
 国は因果関係を認めておらず、今回の差し止め審理でも、漁業被害について主張しませんでした。
 「よみがえれ!有明訴訟」の原告漁民らが求めているのは「漁業も農業も共存する開門」です。馬奈木昭雄弁護団長は「確定判決は否定されていない」と国の開門義務は不変だと強調しています。

国の怠慢に批判の声
漁民原告・弁護団ら報告集会開く

 諫早干拓堤防の早期開門を求めてきた「よみがえれ!有明訴訟」の漁民原告・弁護団・支援する会は12日、長崎地裁の仮処分決定についての報告集会を開きました。

 馬奈木昭雄弁護団長は「国は諫早湾干拓事業と漁業被害の因果関係を示す資料を提出せず、主張もしなかった。やはり国と開門反対派のなれ合い訴訟だった」と国の怠慢を批判。「開門差し止め仮処分の決定が出たが、確定判決が間違っているとされたわけではない」として、開門期限の12月20日に開門されなければ、開門の強制執行を行う方針であると表明しました。堀良一弁護団事務局長は「開門反対派の裁判には未来がない。本当の農漁業、防災が成り立つ長崎県にしなければならない」と語りました。

 瑞穂漁協の石田徳春組合長(76)は「予想外の決定だが、今後も全力を尽くして開門に向けて頑張りたい」と話しました。小長井漁協の松永秀則さん(60)は「現在ある漁業被害を見てほしい」と報道陣に訴えました。