「しんぶん赤旗」2012/07/23
社会リポート

長崎大水害きょう30年

防災対策遅々
住民頼みの実態 県も否定せず

 1982年の「長崎大水害」から23日で30年になります。熊本・大分・福岡を襲った先の九州北部豪雨災害で改めて大雨の脅威を示しましたが、長崎県の防災対策は遅々として進まず、県民には「自主防災」での対応を呼びかけているのが現状です。(長崎県・村ア利幸)


 「滝のような水が押し寄せ、近所の小屋を飲み込んだ。注入する水を食い止めようと土嚢(どのう)を必死に積んで抵抗した」―長崎大水害に見舞われたとき、長崎市深堀町の自治会長をしていた峰松巳さん(85)は、当時の状況を振り返りました。

犠牲9割土砂災害
 長崎大水害は「水害」とされながら、犠牲者の9割が土石流やがけ崩れなどの土砂災害によるものでした。市の南部に位置する深堀地区は、周囲が山に囲まれた谷のような地形です。がけ崩れで山の斜面をえぐり取った当時の写真を示しながら、峰さんは「浸水・冠水被害も深刻で60カ所の通路が水浸しになり、完全に復旧するまで5年かかりました」と話しました。
 30年の節目の年の県の予算、緊急防災・減災事業費は66億8800万円で県全体の歳出のわずか約1%にすぎません。うち、斜面・落石対策費7億2000万円、橋梁架替・耐震補強費11億7100万円です。

 県内の土砂災害危険カ所は現在1万6231カ所あります。早急な対策が必要な6585カ所のうち対応できたのは1330カ所20・2%にすぎません。県土木部砂防課は「ここ30年、長崎に大きな水害はないが、長崎大水害と同規模の大雨が降れば同じ事態になりかねない」と認めています。「防災工事を進めてはいくが、約6000カ所の土砂災害警戒区域の住民には特に注意を喚起する必要がある」とのべ、いざという場合は県民・市民の自主防災頼みであることは否定しませんでした。

重点的に県予算を
 深堀地区の公民館の倉庫には、災害時に使用するロープや懐中電灯、担架などの自主防災の機材はそろっています。市内の自治会にも同じように自主防災の備えがあります。長崎大水害の教訓から地域防災マップを配布して危険地域を知らせ、防災訓練を徹底するなど、工夫を重ねていますが抜本的な解決にはなっていません。

 防災対策が進んでいない実態について「長崎『新幹線』建設中止を求める県民の会」の大石久仁子会長は「県民の命と安全第一で防災にこそ重点的に予算をあてるべきです。わずか28分の短縮のために5000億円も使って長崎に『新幹線』をつくろうとしているが、本当に税金を使うべきは何かを考えてほしい」と話しています。

長崎大水害
 1982年7月23日から24日未明にかけて、夕方から100ミリ前後の豪雨が長崎市に集中、中島川などの河川が氾濫しました。国道34号線が寸断され、多くの家屋が倒壊。死者・行方不明者299人にも上りました。西彼杵(にしそのぎ)郡長与町では、日本での時間雨量の最高記録である1時間雨量187ミリを記録しています。