「しんぶん赤旗」2012/06/18
社会リポート
自民党国会議員を相次ぎ刑事告発
「県民の目線」が議会動かす
諫早干拓入植めぐり百条委

 自民党の現職国会議員が長崎県議会から相次いで刑事告発される異例の事態となっています。告発されたのは、谷川弥一衆院議員と金子原二郎参院議員(前知事)。両議員の親族が役員を務める企業の諫早干拓営農地入植をめぐって調査してきた県議会百条委員会の証人出頭要請を正当な理由もなく拒否したとして、地方自治法違反の疑いで告発議決されたのです。(長崎県・村ア利幸)


 問題となっているのは、谷川議員の長男が代表取締役、その妻で金子前知事の長女が取締役を務めていた農業生産法人「T・G・F」による諫早干拓営農地への入植の経緯です。2008年に入植した農地は約32ヘクタール、干拓農地672ヘクタールの約5%を占める広大な優良地です。法人が設立されたのは07年1月で、入植に必要な農業従事経験がないことが表面化し、両議員の関与が取りざたされていました。

県民が解明要求
 百条委員会が設置されたのは、昨年9月9日のこと。前知事の在職中の疑惑に対する県民の根強い解明要求に加え、昨年のいっせい地方選後の自民党会派分裂が背景にありました。

 百条委員会の調査で新たな事実が明らかになりました。入植企業を選定する選考委員会の形がい化がその一つです。匿名が原則のはずの選考過程で県農業振興公社の選考委員会事務局が企業名を把握した上で点数をつけて事務局主導で選考委員会を運営。T・G・Fが入植できるよう点数をかさ上げした疑いが出てきました。

 T・G・Fの虚偽報告も明らかになりました。農業生産法人の要件には「役員の過半数は60日以上農作業に従事していなくてはならない」とあります。T・G・F前代表の谷川喜一氏は「90日従事」を虚偽記載と認め、「農作業には1日も従事していない」と証言しました。

前知事の関与も
 金子前知事の直接の関与も疑われています。最終入植者決定前の07年9月3日に金子氏は県農林部長らから報告を受けており、T・G・Fの名がリストにあることを知っていました。報告を要求したのが金子氏自身であれば、T・G・Fへの便宜供与を主導した可能性が濃厚となります。

 金子・谷川両議員は百条委の運営 が公正でないとして証人出頭を拒否しました。

 百条委員会委員の日本共産党の堀江ひとみ県議は「諫早湾干拓事業をめぐって県議会で反対は共産の私1人の『45対1の世界』でしたが、百条委員会の設置によって『諫早湾干拓事業とは何だったのか』を考え検証する機会になりました」と言います。

 その象徴が5月29日の農水経済委員会です。「開門反対」が圧倒的多数の県議会が開門を求める漁民代表の意見を聴取しました。堀江県議は「諫早湾干拓事業そのものについても疑惑の真相究明を求める『県民の目線』が県議会を動かしたと言えます」と指摘しました。

 百条委員会は6月21日と7月10日に予定されており、7月13日の最終本会議で委員会のまとめを提出します。


 国営諫早湾干拓事業 農林水産省が「防災機能の強化」「優良農地の確保」を理由に1989年に着工。総事業費2533億円で、事業費は1ヘクタール当たり3億7700万円にも上ります。長崎県諫早湾を長さ約7キロの潮受け堤防で97年に閉め切ったさいは「ギロチン」といわれ、1550ヘクタールの干潟が失われました。2010年12月6日の福岡高裁判決の確定により、国は潮受け堤防排水門の開門を命じられています。