「しんぶん赤旗」2006/12/22

明海異変

諌干との関連調査を環境省に

春名、仁比、赤嶺、田村氏と
ふちせ栄子参院候補ら九州4県代表ら要請


一番左がふちせ栄子、長崎選挙区候補。右から、仁比、春名、赤嶺の各氏

 有明海の急激な環境破壊をもたらした「有明海異変」と八代海での過去最悪の養殖魚の大量死などに関連し、日本共産党九州・沖縄ブロック事務所は12月19日、有明海・八代海再生特別措置法の抜本見直しなどを求めて政府と交渉しました。

 有明海、八代海は近年、赤潮の多発などで魚場環境が悪化しています。特に有明海では、二〇〇〇年度のノリ養殖の色落ち被害やアサリ・タイラギなどの漁業生産の低迷が続いています。〇三年には有明海、八代海の再生を目的とした特別措置法が制定されましたが、環境改善や漁業危機の改善が見られず、事態がいっそう深刻になっています。

 政府交渉に参加した熊本、福岡、佐賀、長崎の有明海沿岸四県の党代表は「有明海異変と漁業危機の原因である諫早干拓事業との関連を調査し、それを取り除く抜本対策をとらなければ、有明海の再生ははかれない」とのべ、来年、見直し期限を迎える特別措置法の抜本的な見直しを要請しました。

 対応した環境省の担当は「有明海異変と諫早干拓事業との関連性については、まだ調査が必要」とのべ、諌早干拓の潮受け堤防の中長期開門調査についても「開門の実施を前提とした議論はしていない」と回答しました。

 さらに、ブロック代表者らは、環境省に設置された「有明海・八代海総合調査評価委員会」が取りまとめた有明海異変の原因調査に関する最終報告案について「干拓事業と漁業・環境被室との因果関係を定していない」指摘しました。

 環境省の担当は「有明海異変の原因調査は必要との認識にたって引き続き調査を続ける」とのべ、来年度予算に調査費用の予算要求をしていることを明らかにしました。

 要請には松岡徹熊本県議、高瀬菜穂子福岡県議と、ふちせ栄子参院長崎選挙区候補、中尾純子参院佐賀選挙区候補が参加。赤嶺政賢衆院議員、仁比聡平参院議員、春名なおあき参院比例候補、田村貴昭衆院比例候補らが同席しました。(しんぶん赤旗)

「有明海・八代海総合調査評価委員会」・報告案についての見解と、「有明海及び八代海を再生させるための特別措置に関する法律」の抜本的見直しについての申し入れ
環境大臣 若林正俊 殿
2006年12月19日
 
日本共産党福岡県委員会
日本共産党佐賀県委員会
日本共産党長崎県委員会
日本共産党熊本県委員会
日本共産党衆院比例九州沖縄ブロック事務所
 
 有明海の急激な環境破壊と水産業の衰退をもたらした「有明海異変」や八代海での過去最悪の養殖魚の大量死などを受けて、「有明海及び八代海を再生させるための特別措置に関する法律」(以下「特別措置法」という)が制定されて4年が過ぎた。いま、特別措置法により環境省に設置された「有明海・八代海総合調査評価委員会」(以下「評価委員会」という)は、5年以内の見直しに向けて貴大臣に「再生」にかかわる評価と意見の最終報告案を11月29日に発表し、年内に評価委員会の報告書としてまとめようとしている。

 わが党は、2002年6月21日に上記4県の党県委員会の連名で、国会に提出された「特別措置法案」について、「この海域の持つ特徴をふまえた環境悪化の原因にメスを入れず、一時的な対症療法的事業を並べただけの法案であり、何より問題なのは、広大な干潟を消滅させ、有明海の環境の人為的改変として最も問題をはらんだ諫早湾干拓について全く言及していない点です」と指摘していた。

 この4年間に、特別措置法にもとづいて、有明海、八代海の「再生」のための取り組みがおこなわれてきたが、環境改善や漁業危機の改善は見られないだけでなく事態は一層深刻化している。

 1990年に着工された諫早湾干拓事業により諫早湾内の漁業は壊滅的打撃を受け、とくに、1997年4月の潮受け堤防の締め切りによって、有明海全域で有明海異変と呼ばれる環境悪化が顕著になり、多くの漁民が自殺や廃業に追い込まれている。2002年11月には、多くの漁民と市民が佐賀地裁に諫早湾干拓工事の差し止め訴訟を起こし、現在、この原告は2,500名を超えている。

 評価委員会の中間取りまとめが発表されてからだけとっても、大学教授や水産研究者は繰り返し、有明海の環境の悪化が、潮受け堤防が閉め切られたあと顕著になっていることを詳細な資料を示して評価委員会に意見を述べ、評価委員会が諫早湾干拓事業の影響の本格的調査をすすめるよう強く要望してきた。

 しかし、評価委員会の最終報告案は、これまでの取り組みでは環境の改善が見られないにもかかわらず、諫早湾干拓事業の環境悪化への影響にメスを入れたものになっていない。

 この報告案にそった特別措置法の見直しでは、有明海及び八代海の再生は出来ないと考える。

 そこでわが党は、評価委員会の最終報告案についてのわが党の基本的見解を述べ、年内にまとめられるという報告が抜本的に改定されるとともに、有明海及び八代海を真に再生させるための特別措置法の抜本的な見直しを求めるものである。

一、評価委員会の報告には、諫早湾干拓事業が有明海異変と漁業危機に与えた深刻な影響とそれをとりのぞく対策を明記すること

1、最終報告案の最大の特徴は、有明海異変とそれがもたらした漁業の深刻な危機の要因として諫早湾干拓事業の影響に驚くほどメスを入れていないことである。
 この間、佐賀地裁、福岡高裁、最高裁で「よみがえれ有明海訴訟」の仮処分に対する判決が出された。

 佐賀地裁は、諫早湾干拓事業と有明海異変、漁業被害との因果関係を認め、「工事を続行してはならない」と国に命じた。しかも判決は、「すでに完成した部分」「工事進行中」「工事予定の部分を含めた」「事業全体をさまざまな点から精緻に再検討し、その必要に応じた修正を施すことが肝要」と述べている。

 福岡高裁、最高裁は、工事差し止めの仮処分を認めない不当なものではあるが、諫早湾干拓事業と有明海の環境悪化の関連は認めている。しかも、開門調査を含めさらに調査する義務が国にあることを福岡高裁、最高裁も認めている。

 ここまではっきりと裁判所が、有明海異変、魚業被害と諫早湾干拓事業の因果関係について明確にしているのに、評価委員会が本格的な解明を避けているのは異常であり、諫早湾干拓事業の影響についてはタブー視しているとしか言いようがない。

2、多くの学者・研究者が、評価委員会に対して、個々に、あるいは共同して、諫早湾干拓事業の影響についての調査と評価を避けているとの厳しい批判を、詳しい資料もつけて再三意見を述べてきた。しかし、これらの意見が事実上無視されたものとなっている。

 また、「中間取りまとめに対するパブリック・コメント」が110件寄せられたが、82件が「評価委員会の審議の参考とさせていただきます」としているだけで、ほとんど真剣な検討がなされたという形跡がない。釧路湿原の際のパブリックコメントには一つ一つていねいに対応していたのとは天と地の開きがある。

 大型開発の影響について調査・評価することがタブー視されているといっても過言ではない。

 とくに、諫早湾干拓事業で造成された調整池の有明海環境におよぼす影響が全く無視されていることは重大である。

3、以上の点から、年内にもまとめられる評価委員会の報告書には、発表時期を延ばしてでも、諫早湾干拓事業の有明海異変と漁業危機に与えた影響とそれをとりのぞく対策を明記するよう強く要請したい。

二、真の有明海再生に向けた特別措置法の抜本的な見直しを

 特別措置法は、5年以内に「この法律の施行の状況」、「総合的な調査結果を踏まえ、必要な見直しをおこなう」としている。

 佐賀地裁、福岡高裁、最高裁がいずれも開門調査を含む諫早湾干拓事業の影響についての調査を国に義務づけている以上、特別措置法の見直しにあたっては、目的、基本方針などの項に、開門調査を含む諫早湾干拓事業の影響調査と、それを実行するにふさわしい体制の確立を明記することを強く求めたい。