「弱い立場の人への理解こそ」という教えがありますが、イラクの人質事件で一番びっくりしたのは、政府や与党幹部から救出費用の自己負担発言まで飛び出したことです。拘束された人が自分の家族だったりしてもやっぱり同じ発言をするのでしょうか。
 イラクの困った人たちの役に立ちたいと活動していた人たちですよ。私は、「日本の若い世代の中にもこういう人がいて、日本も捨てたものじゃない」という気持ちになりました。あの人たち自身の活動が自らの命を救ったんだと思います。
 パウエル国務長官だって「日本は彼らの行動を誇りに思っていい」と言いました。外国のメディアは、「なぜバッシングなのか」と不思議がっています。
 それを、「勝手に行った」とか「自己責任だ」と、イラクに行くのが悪いと責めるのはおかしいですよ。結局、「自衛隊のイラク派兵に反対の人だったから」ということでしょう。
 真の人助けに危険が伴うのは当たり前、それを承知で自分のためでなく人のために活動しているんです。そういうことが日本のイメージを高めることになるんです。
 長く活動してきた非政府組織(NGO)の人たちが、「自衛隊がいなければ自分たちの活動はもっとやりやすい」と話すのは、体験から出たことばです。
 どんな立場の人であっても、善意の活動で事件にまきこまれた自国民を保護するのは政府として当然のことです。
 イラク聖職者協会の人が日本の外務大臣のことを、「感謝のことばもなく、喜んでもいないようだ」と話していましたが、私もテレビを見ていてそう思いました。むこうの人には心の中が見えたんだと思います。「何と恩知らずな国の指導者か」と思ったでしょうね。
 政府は何をもって「人道支援」とか「国益」とかいうのでしょうか。自衛隊の「支援」は、NGOの何十倍、何百倍の金を使うけど、やっていることはほんの一部です。むしろ政府は、NGOなど善意の人たちが積極的に活動できる環境をつくるべきです。こうした人たちの行動こそ、イラクの民衆の心をひらくのです。
 人の幸福は経済的なものだけではありません。武器をつくる金を平和外交に使ってこそ思いは相手に通じるということを教訓とすべきです。
 いま、国民一人ひとりにとって、政府が流す意図的な情報に影響されるのではなく、しっかりした考えや判断が求められていると思います。
私は言いたい
NGOなどの善意の活動こそ、イラク民衆の心を開く
長崎・聖母の騎士修道院神父
月刊『聖母の騎士』編集長
  水浦 征男さん
「しんぶん赤旗」2004/4/24