「痛い助けて!と叫ぶ男の子」「イエローケーキに触れた若者の体から20倍の放射線が」…。戦争「終結」宣言後のイラクを撮り続け、被爆地長崎で写真展を開いた長崎出身のカメラマン・山頭範之さん(29)。戦闘が続くイラクの現実と派兵計画を決めた日本が、その目にどう写っているのかを聞きました。
(長崎県記者・田中康)
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 現地で、「日本には米軍基地があちこちにある」と話したら、「日本は独立国なのか」と言われました。イラク人からすれば、いま占領状態にあること自体が異常なことなんです。バグダッドの街中は、戦車や装甲車がバスのようにいっぱい走っている、それも市民に銃口を向けて。市民は幹線道路すら使えず生活にも困っています。
 建設会社を営む男性から直接聞きました。「病院に急いで行きたいから検問を通してほしいと頼んだら、押し倒され、カフィーアとイカール(頭のスカーフとリング)を踏みつけにされた」と。結局、通してもらえず、彼は「絶対に許さない」と言っていました。
 イラクの人たちも最初は、アメリカの方がサダムよりいいかもしれないと思っていたようです。だから黙っていた。ところが米軍の占領状態のなかで、失業者があふれ、生活も治安もどんどん悪くなった。だから抵抗を始めたんです。
 イラクの人はすごくやさしい、何回も助けられました。でも多くの市民は、「自分の身が安全なら闘いたい」といい、さらに「死ぬかもしれないけどやる」といいます、普通の人が。そんな人が増えています。米軍一人ひとりには、まわりのほとんどの人が敵に見えてきていると思います。
 そんな所に日本の「自衛隊」が行けば、攻撃を受ける可能性は高いでしょう。米軍と同じと見られるのは当然だから。
 日本は憲法九条を持っている国ですから本来ありえない、あってはならない戦争参加ですよ。
 特に訴えたいのは、「米軍の劣化ウラン弾」と「「持ち去られるイエローケーキ(天然ウラン)」の二つの放射能をイラク人が浴び、その被害でこれからたいへんなことになるということです。
 米軍は、石油省の建物は戦争「集結」宣言の前から警備して守っていたのに、「イエローケーキ」が保管場所から持ち出されるのは黙認していたと言われています。「劣化ウラン弾」の影響は必ず出てくる。そのとき、「『イエローケーキ』のせいだ」と弁解できるからではないでしょうか。
 私が、「被爆地長崎の出身」というと注目してくれ、同情的に接し核兵器に関心をもってくれます。しかし、放射能汚染について普通の人はほとんど知りません。それは、「汚染された地面を平気で歩く子どもたち」や「若者の体が通常の二十倍の放射線を発している」とコメントした私の写真でも分かります。
 写真を見てくれた人が言いました。「イラクのニュースを見ていて、一枚の写真が目に浮かんだ、あの子が犠牲になっているのではないか」と。写真展を開いた意味があったと思いました。
 一人でも多くの人に訴えたいです。「写真の子どもたちの笑顔がなくなる瞬間をイメージ(想像)してほしい」と。
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 望まぬ苦しみにさらされるイラクの人たちへの、あふれる思いを語る山頭さん。「来年イラクに行ったときには、もう友だちと思ってくれないかもしれない」と不安を隠さず、自衛隊はイラクに行ってはいけないと訴えました。
  
 山頭範之(やまがしら・のりゆき)、長崎市出身。大学一年の夏休みにインドを旅行したのが写真との出会い。戦時下のアフガニスタンを伝える写真で第八回土門拳文化賞を受賞。
長崎でイラク写真展を開いた山頭範之さんが語る「占領下のイラクと日本」
「しんぶん赤旗」03/12/22