「人間が自然にこんなことをしていいのか」、「今からが正念場

 国営諫早湾干拓事業の工事差し止めを求める「よみがえれ!有明海訴訟」の提訴から二十六日で一年。集団訴訟の原告は八百五十人を超え、支援する会の全国的な広がりのなかで訴訟は来月にも結審を迎えようとしています。「訴訟を支援する長崎の会」が十五日に取り組んだ、地元諫早市での現地見学と学習交流集会を追いました。(長崎県・田中康記者)
◆「一刻も早く中止に」◆
 この日、開かれた「諫早湾干拓現地見学会と、『有明訴訟』学習交流集会」には、のべ百五十人の市民や漁民らが参加しました。
 「九割完成している。いまさら中止できない」と工事を強行し続ける農水省と長崎県。しかし有明海異変は深刻化する一方です。
 魚、カニ|年々漁獲量が減り続け、「保険の解約や貯金の取り崩しの生活」と口をそろえる長崎県有明町の漁民や家族。諫早湾のあまりの変わりように、「人間が自然にこんなことをしていいのか」と、怒りに声を震わす女性。こうした全国の声は裁判所に届くのでしょうか。
 訴訟弁護団の堀良一事務局長は、訴訟の進行について「来年三月の仮処分決定が現実のものになりつつある」と展望を語り、「いま大事なことは『工事中止』を求める世論で推進勢力を包囲すること」と強調します。
 「百聞は一見にしかず」と、小型バスや自家用車を連ねた見学会には、初めて参加した人も目立ちます。干拓地の全景を見下ろす高台では、数年前まで広大な干潟だった場所を確認。「調整池に近い干陸地を南北に走る白い線が問題の前面堤防の工事現場」との説明に、資料を見ていた参加者の目に怒りと緊張が走りました。
 かつて広大な干潟のなか、見事なみお筋が通っていた白浜海岸、「ここはね、すごいハゼ釣りの名所だった」という声にため息がもれます。いまは旧堤防も隠れるほどにセイタカアワダチソウが繁ったままです。
 干潟が潰される前、親に連れられて真っ赤なシチメンソウを見に来たことがあるという氏福恭子さん、「諫早干拓でいいことは何もない。こんな理路整然としたことが通らず、なぜ工事が強行されるのですか。結局は大企業の仕事と金もうけのためですか」といいきり、訴訟での一刻も早い仮処分決定を求めていました。

◆今からが正念場◆

 学習交流集会が開かれたのは諫早市の中心部にある勤労福祉会館、会場はいっぱいです。有明海の魚の研究者や水の専門家、漁民、市民が一堂に会し、現地での一年間の運動の広がりを感じさせます。
 有明海漁業を漁民ととも研究してきた田北徹さん(長崎大学名誉教授)は、「諫早湾奥部が、有明海の生物生産に果たした大きな役割」について講演。「湾閉め切りの影響は小さい」とか「干潟の機能は取るに足りない」など、事業推進勢力のことばを引用し、それがいかに現実と違うかを分かりやすく解明。だれもがうなずいています。「多くの科学者・研究者の意見を否定する農水省は、その根拠となるデータを示さなくてはならない」との指摘に大きな拍手が起こりました。
 「潮受け堤防閉め切りと調整池の水質」について報告した長崎市小江原下水処理場の元場長・田中賀太さんは、「最も重要な水深別の溶存酸素濃度の測定値が隠されたまま、調整池は酸素不足から浄化機能をなくし、底層に酸欠で腐敗した膨大な量の有機物がたい積している。これを人工的になくすことは不可能、自然の潮流に任せる以外にない」と、有明海再生には潮受け堤防の開放が不可欠であることを強調しました。
 佐賀県大浦町から駆けつけたタイラギ漁の大鋸幸弘さんは、困難を乗り越え自ら訴訟の原告に加わったことを報告。漁船の抗議行動の経験から、「漁民が潰れれば漁協も消える。漁業者だけでなくカニ料理の旅館も、造船所も潰れる。何としても干拓事業の中止を」と、関連業者や市民とも手を取り合って運動を進める決意を表明。
 集会が終わっても多くの参加者が、「がんばろう」「いまからが正念場」と手に手を取り合って裁判勝利への奮闘を誓い合っていました。
諫干訴訟、間もなく一年、地元諫早で現場見学と学習交流集会
「しんぶん赤旗」03/11/17