2003年7月17日(木)「しんぶん赤旗」

長崎・男児殺害 少年補導から1週間

何かしなければ… 始まる模索


 長崎男児誘拐殺害事件で、長崎市内の中学一年生の男子生徒が県警に補導されて十六日で一週間。「なぜ!」という衝撃から、「今何をしなければならないか」へと模索を始めた現地の市民の声を聞きました。(菅野尚夫記者)

◆現場で

 花束の山。駿ちゃんが好きだった仮面ライダーのプラモデル、お菓子−。駿ちゃんの無念と両親の苦悩に寄り添う市民の思いが膨らみ、現場に長崎市が用意した机にはたくさんの花束などが手向けられています。

 「痛かったろう。怖かったろう。ごめんね。僕らおとながこんなにまわりにいて助けてあげられなくて」。みんなの思いです。「長崎はこんな感じじゃなかった。狭い街で、みんなの目が、顔がお互いに見えとった。いつのまにかこがん(こんなに)なってしまっとった」と書く教師は生徒と一緒に語り合いました。

 佐賀市からきた六十二歳の女性は「バスジャック事件のときも驚きました。信じられない」といい、涙をぬぐいました。「(駿ちゃんは)孫と同じ年ごろ。成績成績ではなく子どもとしっかり向かい合う親子のきずなを強くしなければ」といいます。

◆家庭で

 「言葉にならない。処罰するだけでいいのだろうか」と話すのは夫婦で花を持って手を合わせた男性会社員(39)です。補導された中学一年生と同じ年の息子を持っています。「加害者も、被害者もいま本当に大変です。駿ちゃんも加害者も私はかわいそうで胸が締め付けられます。自分の息子がもしも加害者になったらと思うことだってある。絶対ないとは限らない。真剣に息子と話し合っている」といいます。

 夫婦はいつまでも手を合わせていました。

 二歳になる息子を乳母車にのせて現場にきた主婦(40)は「今から先はもっと夫も子育てに参加してほしいと話し合っています」。

◆地域で

 「おはよう」。補導された少年が通っていた中学校の通学路では父母らの声が響きます。

 「子どもから何かを学び取ることが大切ではないか」と語るのは、少年と同じマンションに住み、幼いころからの少年をよく知る女性。「子どもを監視するのではなく、『おとなが見守っているよ』と子どもたちに感じとってもらえる地域社会にしたい」といいます。

◆学校で

 「生徒が駿ちゃんのめい福を祈って折り鶴を折っています」と中学の校長はいいます。少年が通っていた中学校では、「少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるようです」と校長はいいます。生徒グループでの話し合いも始まり、遺族のためになにかしたいという生徒たちの取り組みが起きています。

 「教員生活三十七年目ですが、こうした事件は初めてです。ショックというよりも、子どもと一緒だったのですから『なぜだろう』と思いました」と話すのは、少年が卒業した小学校の校長。「五年生の時の記録には、しかられたり、自分ができなかったりしたときに情緒不安定を起こすので保護者に何回か相談したが改善が見られなかったという表現がされています」と語ります。

 パソコンクラブに入っていて六年生になって部長になった少年。『三国志』を三十巻読破したという意欲的な面もあったといいます。

 「一人ひとりの子どもを理解し、もっと深め、ただ知識を教えるということだけでなく、働く力というものを、生活力というのですか、生きて働くという人間力というものをもっと培っていかなければいけないと思っています」。

 それぞれのところで、事件から考え、教訓を引きだし、生かそうとする動きが始まっています。