諌早湾の中・長期開門調査

海洋学会が強く要望


 海洋学会の海洋環境問題委員会(委員長・高田秀重東京農工大助教授)は有明海異変の原因究明と回復のための提言を最新号の学会誌『海の研究』に発表しました。提言は「これまでに公表された調査結果を検討したうえで、環境悪化の要因を解明するには諌早湾の中・長期開門調査が不可欠とし、その実施を強く要望しています。(解説

 提言は、(1)諌早湾の閉め切りなどによる潮位・潮流の変化の問題(2)調整池からの排水が有明海に与えている悪影響(3)ノリ不作と赤潮の問題(4)貧酸素水塊の広がりの機構解明の問題(5)有明海特有の泥干潟の浄化力の解明の問題などについて検討しています。

 とくに注目されるのは、調整池の排水の悪影響(負荷)を「正確に見積もることが決定的に重要である」と強調している点です。

 提言では、水質汚染の指標で有機物の含有量を示すCOD(化学的酸素要求量)の調整池から有明海への排出量がこれまでの農水省の予測値の3倍にもなると指摘した目然保護協会などの調査を紹介。「諌早湾の閉め切りに伴って推定されている潮流の弱まり、調整池からの負荷の増加によって、底質の悪化・貧酸素水塊・赤潮間題が発生し、ノリやタイラギなどの資源が影響を受ける可能性が高い」とのべ、問題解明の重要性を強調しています。

 「こういった重要な問題を置き去りにしたまま干拓事業が進められようとしている状況もある」と指摘し、有明海の環境悪化要因を解明するには「中・長期開門調査が不可欠」としています。(しんぶん赤旗より)


解説

干拓差し止めへ有力な根拠


 海洋学会の海洋環境問題委員会が有明海の問題について提言を出すのは昨年3月につづいて2回目。同委員会は約30人の委員で構成し、委員会内に「有明海問題検討委員会」を設置して調査・検討してきました。提言は、海洋学会で吟味のうえ、発表したものです。
 昨年のノリ不作以来、各研究機関から報告された多くの調査・研究結果は、干拓工事で諌早湾を閉め切っ
たために潮流の変化や赤潮の多発など有明海にさまざまな悪影響が出ていることを指摘しました。
 農水省が設置置したノリ不作等検討委員会(第三者委員会〉は閉め切りの悪影響を検証するために水門を開けて調査する必要を提言。農水省が主張した短期の開門調査だけでなく中・長期の開門調査の必要を提案しました。
 農水省は約1カ月の短期調査を実施したものの(中・長期開門調査を実施しないままです。そればかりか調査目的の干潟の浄化力や海水の流動の変化を調べるのが不可能になる調整池と干拓地を隔てる前面堤防の準備工事を進め、近く本格工事に入る予定です。
 このため福岡県有明海漁連(荒牧巧会長)は工事の差し止めを提訴。環有明海住民運動連絡協議会(代表世話人・河西龍太郎弁護士)も工事差し止めの原告数百人のマンモス訴訟を起こす準備を進めています。海洋学会の提言は、開門調査を短期調査ですまそうとしている農水省の不当性を浮き彫りにし、差し止め訴訟に有力な学問的根拠を与えています。(松橋隆司記者)


再生にはむしろ有害

有明・八代海特措法案に反対

市民3団体


 有明海漁民・市民ネットワーク、諌早干潟緊急救済本部、同東京事務所の3団体は11月7日、与党が今国会で成立をめざす有明海・八代海再生特別措置法案の廃案を求める声明を発表。3団体の代表らとともに、同日の衆院農林水産委員会で法案に反対する立場から参考人陳述した宮入興一愛知大学教授、森文義・元小長井漁協組合長らも同席して、衆院第二議員会館内で記者会見し、同法案の廃案を強く訴えました。

 声明は、同法案が一部の漁港漁場整備事業の国庫補助率をかさ上げするだけで、「有明海、八代海の再生に役立たないばかりか、本当に必要な対策を遅らせる意味で、有害である」と指摘。「形ばかりの短い審議で成立されようとしていることは、誠に遺憾」と抗議し、中長期の開門調査、潮受け堤防の撤去などの諌早干拓事業の抜本的見直し、川辺川ダムや熊本新港など進行中の大規模事業の中止を求めています。

 同ネットワーク事務局の陣内隆之さんは「抗議の意思を示し、法案を成立させないように、国会審議を監視していく」と発言。

 同席した日本共産党の小沢和秋衆院議員は「法案が、干拓工事にお墨付きをあたえ、ゴーサインになることを、みなさんが憂慮している。法案に反対していく」と語りました。(しんぶん赤旗より)