諌早湾調整池の汚濁排出量

農水省予測の3倍

自然保護協会調査


 諌早湾の調整池からの排水が有明海に予想以上の悪影響を与えていることがわかりました。日本自然保護協会の程木義邦・保護担当研究員らの調査によると、調整池から海域に排出されるCOD(化学的酸素要求量=有機物の汚染度の指標)排出量はこれまでの農水省の予測値の三倍にもなることが判明。有明海の赤潮の増大、貧酸素水塊拡大の原因として注目されます。

 程木研究員らが諌早湾内のCOD濃度と塩分濃度との関係を調べた結果、調整池からの排水はCOD濃度が一五ppmと推定されました。排水のCOD濃度に調整池からの年間総排水量を掛けるとCOD総量は年間約六千トンにのぼります。

 農水省はCODの年間排出量を約二千トン(環境影響評価に係わるレビュー)、農水省の第三者委員会委員の試算では約三千トンと報告されているので、程木研究員の算定値は、その二〜三倍になります。

 環境省の調査によると有明海全体の年間COD総量は三万六千五百トン。このうち17%(六千トン)が調整池からのものということになります。調整池からの排水量は有明海に流れこむ河川全体の水量の3%。これに対しCOD総量が17%もあるのは調整池の排水がいかに有害な役割を果たしているかを示しています。


複式干拓の悪影響を示す

 東幹夫・長崎大学教授の話 農水省が諌早湾干拓事業で採用している複式干拓方式は、内湾を堤防で閉め切って干拓地と調整池をつくるものです。この方式は干潟の喪失によって浄化機能を損なうため、調整池の水質が悪化し、堤防外の海域に深刻な悪影響を与えます。このことは、岡山県の児島湖や韓国の始華湖などでも経験済みです。

 今回の研究は、農水省の試算を大幅に上回る汚濁負荷を証明したものです。複式干拓に固執したまま二〇〇六年完成を企てるこの事業を抜本的に見直し、海水を導入してもとの干潟を取り戻すことが諌早湾や有明海再生の道であることを今回は数字で示したものとして重要です。


 COD(化学的酸素要求量) 海や湖沼の水質汚染の指標で、水中の有機物の含有量をppm(一リットル中のミリグラム)で示します。測定は水中の有機物を酸化剤で酸化させるときに消費する酸素量で測るので、化学的酸素要求量といいます。調整池からの年間総排出量(約四億トン)に一五ppm(一リットル中一五ミリグラム)を掛けると年間六千トンになる勘定です。


農水省は早急に検証を

解説

 諌早湾を堤防で閉め切ったことと調整池からの排水が有明海の海洋環境の悪化や漁獲量激減の元凶だと漁業者は訴えてきました。「諌早湾の排水門を常時開放してもらいたい。それがだめだというなら調整池からの排水をやめてもらいたい」との主張もしてきました。自然保護協会の今回の調査は漁業者の訴えの正当性を裏付けるものです。

 ダムや河口堰(かこうぜき)のように一度水の流れが止められると、水質の悪化が自動進行します。有機物の増大は酸素消費量の増加を伴い、流れがよどむと水をかき混ぜる力が弱まり、酸素の供給も不足します。底層が酸欠状態になり、底にたまる泥もヘドロ化します。

 黒部川の出し平ダムにたまった土砂を排出したために、河川ばかりか富山湾まで汚染し大問題になったのがその例です。

 調整池も同様です。諌早湾を堤防で閉め切ったので河川から流入する水の流れがいったん止められます。以前は河川水が干潟で浄化され諌早湾へ流れていたものが、干潟を干陸化したために浄化されない河川水が調整池にためられます。

 浄化されずにたまった水が、さらに悪くなって排出されています。以前に比べ二重に悪化した汚濁水が諌早湾から有明海に排出されていることになります。

 始末の悪いことに、河川水はたえず流入するので、調整池の汚濁水もその分量を排出しないわけにいかないのです。調整池を設けたこの干拓方式の構造的な問題点です。これを根本的に解決するには、排水門の常時開放と元の干潟を再生するほかないことがわかります。

 今回、調整池排水の悪影響について、農水省のこれまでの予測値を大きく上回る結果が示されました。有明海全体で3%にすぎない調整池の排水量が有機物汚染の割合では有明海全体の17%にもなるとの数字は重大です。諌早湾を閉め切ったことによる海水混合力の弱まりと有機物増大が合わさり大規模な貧酸素水塊や赤潮の多発などの要因となっている可能性を強く示しています。農水省は急いで今回調査の検証をすべきです。(松橋隆司記者)

 2002年6月19日(水)「しんぶん赤旗」