2001年12月20日(木)「しんぶん赤旗」

諫早湾水門調査   開門長く大きく  有明全体に影響


 有明海のノリ不作などの原因を調べている農水省の第三者委員会(委員長・清水誠東大名誉教授)は19日、諌早湾の潮受け堤防排水門の開門は「できるだけ長く大きいことが望ましい」とし、最終的に数年間の開門調査が必要とする見解を発表しました。地元漁民らは今回の見解を歓迎。委員会の結論を尊重するとしてきた政府側の責任ある対応が求められます。


第3者委員会   農水省案覆す見解

 農水省はこれまで、短期間で小規模の海水を入れる開門調査を主張。調査後は堤防内側の調整池に海水を入れず淡水に保つことを前提とした事業見直し案も示しています。

 今回の見解は同省案を根底から覆す内容となっています。

 見解は「諌早湾干拓事業が諌早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていることが想定される」と指摘。「その検証を当面シミュレーション等で行うとしても、やはり開門は必要」とのべています。

 調査期間については、生物の働きや干潟の浄化機能に季節の変動があることを考えれば「一時期だけの短期間の調査では不十分」と指摘。

 第一段階として二カ月程度の開門調査を考え、その次の段階として半年程度、さらに数年の開門調査へ進むことが望ましいとしています。

 調査にあたっては、水位管理の制約条件も緩め「できるだけ干潟面積を増やすことが望ましい」としています。

 

諌早問題 党国会議員団が佐賀・長崎に
プランクトン異常発生、潮流が変化…どうなるか心配


 有明海のノリ養殖漁業被害や諌早湾干拓事業の実態調査をおこなう日本共産党国会議員有明海問題調査団の中林よし子衆院議員、紙智子参院議員らは十九日、佐賀・長崎両県の有明海沿岸地域を訪れ視察しました。

 この日午前、調査団は佐賀県芦刈町の県有明水産振興センターやノリ漁業者の協同ノリ加工場などを訪ねました。これには日本共産党の武藤明美県議らが同行しました。

 同センターでは白島勲所長らが一行を歓迎し、昨シーズン大きな打撃を受けたノリ養殖の被害や今期の生産状況などを説明しました。

 白島所長は有明海のタイラギが三年間不漁など、魚介類やノリの色落ち被害について、「プランクトンの異常発生で海水の栄養塩や酸素が不足したことと、潮の流れが遅くなるなど変化した」とのべ、この原因については「国の第三者委員会の調査にゆだねている」と話しました。

 また、今期のノリ養殖について、太良町沖漁場で被害が出ているが、いまのところ例年並みだと説明。「しかし、冬場は気温が下がりノリの育成も遅く、プランクトンが異常発生すればどうなるのか心配は尽きない」と、ことし被害を受けた漁業者への漁業保障の充実を訴えていました。

 調査は二十一日までの予定。


再生は農水省に責任

日本共産党 小沢和秋衆院議員が談話

 第三者委員会が農水省の圧力を乗り越えて排水門の長期開放調査が必要との見解を示したことを高く評価したいと思います。

 農水省は、干拓事業を中止して干潟の再生に取り組むべきです。諌早湾を閉め切った悪影響が今回きちんと指摘されており、農水省にはひん死状態の有明海を宝の海によみがえらせる責任があります。そのほうが、よほど経済効果もあるのです。

 農水省は防災を強調して抵抗していますが、佐賀県など全国でやっている低地対策を取れば解決できます。その対策をとらずにきて防災を口実に干拓を中止できないなどというのは、二重、三重に住民や漁民をだますものです。

「宝の海」を返してほしい

ノリ漁民 

 有明海沿岸の漁業者は十九日、ノリ不作等調査検討委員会が諌早湾干拓事業の長期間の水門開放を求めたのを受けて、「農水省はこれを機会に水門を常時開放し、事業を中止し、『宝の海・有明海』を元に戻せ」と声をあげています。

 熊本県荒尾市のノリ漁民、田中太郎さん(27)は、「当然、農水省は第三者見解を尊重すべきだ」とのべ、水門開放に条件をつけて妨害してきた国に厳しい声を突きつけました。「諌早の水門を開けんかぎりは、有明海の回復は望めない。開いたら望みが出てくる」と語りました。

 福岡県有明海区漁業調整委員会委員の荒巻弘吉さんは、「農水省がいう調整池を最大マイナス一メートルに保つというやり方では何にもならない。タイラギ漁はここ三年まるっきりダメ。水門を早く開放して『宝の海』を返してほしい」とのべました。

 「有明海は、海の生き物の状況がまったく変わってしまった」という福岡県の大和漁協の田中清人さん(65)は、「諌早干拓の中止、水門常時開放に、『宝の海』再生ができるかがかかっている」といいます。

 「十六歳から漁業をしてきた」と話す佐賀県川副町の女性(60)は「干拓の工事をやめさせるために、ことし諌早湾にすわり込みに二度いきました。元の海にしてほしいんです」と話していました。


解説

水門開放で第三者委見解

干拓継続の農水省に“断”

 有明海の漁獲高は干拓事業の工事が始まった一九九〇年以降直線的に減りつづけており、改善の兆しも見られないのが現状です。その重大な要因として諌早湾を閉め切ったことと、そのために広大な干潟を失ったことが指摘されてきました。農水省はこの指摘に無視または拒否の姿勢をとりつづけてきました。第三者委員会の今回の見解は、農水省の頑迷な姿勢を許さない判断を示した点でも注目されます。

 干拓工事のために農水省は諌早湾の三分の一を堤防で閉め切りました。この結果、千五百五十ヘクタールの干潟を一挙に失い、その浄化作用と生物の繁殖の場が奪われました。加えて堤防内側の調整池に流れこむ河川水で汚濁が進行。たまった汚濁水は排水門からたえず流されてきました。

 この問題について見解は、千葉県の三番瀬を元にした計算例も示し、「かなりの浄化能が閉め切りによって失われたと想定される」と指摘。「浄化機能が失われれば、当然河川からの流入負荷が海域に達する割合は増え、したがって海域の負荷は増大したことになる」としています。

 農水省は「浄化機能を評価する方法が確定していない」と干潟の価値さえ認めようとしてこなかったところです。

 海洋環境悪化の重大な要因として挙げられているもう一つの問題は、潮位差、潮流の減少です。

 その原因についてはこれまで、元理化学研究所主任研究員の宇野木早苗、九州大学教授の柳哲雄、東大教授の磯部雅彦の三氏がそれぞれ独自の方法で諌早湾閉め切りの影響が大きいことを発表していました。第三者委員会の見解は、「潮位差の減少という有明海全体の問題に閉め切りが大きく影響していることは否めない」と述べ、原因の特定に決着をつけたといえます。

 しかし実際に諌早湾の閉め切りがどんな影響を与えたのか―これを正確に調べるためには堤防に設置されている排水門を開放し、干拓事業で陸化した西工区にも海水を入れて干潟を再生することが不可欠になります。浄化能力や潮汐・潮流がどうなるかを調べる必要があるからです。

 農水省は常時開門調査に防災を強調して抵抗してきました。調査後は閉門して海水をいれず、干潟を捨てる方針です。陸側の西工区の事業だけを進める見直し案を示し、長崎県が了承している経緯もあります。

 第三者委員会を立ち上げた谷津前農水大臣は「委員会の結論は尊重する」と約束しています。武部現農水大臣も岩佐恵美参院議員の質問に「第三者委員会の結論を尊重して排水門を開けての調査に対処してまいりたい」と答えています。 その誠実な実行が求められています。(松橋隆司記者)

第三者委員会が諌早湾の潮受け堤防の開門調査必要の見解