自らの約束さえほごにする米軍の傍若無人

米原潜の無通報入港

佐世保

 2001年4月 4日(水)「しんぶん赤旗」


 米海軍の攻撃型原子力潜水艦シカゴが二日、事前通報なしに長崎・佐世保港に寄港したことは、米側が自ら約束したことさえ反故(ほご)にしたものです。日米政府は“米軍内部の単純な連絡ミス”として、事件の幕引きを図ろうとしています。日本にわがもの顔で原潜を出入りさせる米軍の横暴と、それを容認してきた日本政府の弱腰の姿勢があらためて問われています。(山崎伸治記者)

24時間前通報約束したが…

 原潜の日本寄港については、米国は一九六三年一月、日本側に初めて要請。これを受け入れた日本政府は、原潜の寄港について、日米安保条約とそれにもとづく地位協定からいって当然の義務という態度をとってきました。

 しかし、核兵器持ち込み疑惑や、放射能漏れ事故など原子力にたいする日本国民の強い懸念があったため、米国は六四年八月に「声明」を発表。

 「寄港する軍艦に放射能汚染をもたらす危険がないことを確認するため、当該軍艦の近ぼうにおいて、同(受入国)政府の希望する測定を行うことができる」こと、「受入国政府の当局に対し、少なくとも二十四時間前に、その原子力軍艦の到着予定時刻および停泊または投びょうの予定位置につき通報する」ことを約束しました。

 これによって米軍は、原潜の日本寄港の際、二十四時間前に外務省に寄港時間と寄港先を通報し、日本側はそれを受けて、放射能測定を準備し、寄港後におこなうことになったのです。

 事前通報なしの寄港は今回が初めてですが、通報遅れはこれまでも繰り返されてきました。最近(九七〜二〇〇一年四月三日)では、横須賀で四回、佐世保で八回、沖縄・ホワイトビーチで二回の通報遅れなどがあり、ルール破りが横行しています(表)。米側はルール破りについて「運用上の理由」とするだけで、理由さえ明確にしていません。

放射能が漏れ「大綱」を決定

 米原潜の寄港そのものをやめさせることが必要なのはいうまでもありませんが、事前通報は、日本側の放射能測定準備や民間船舶航行の安全対策のための最低限の措置です。

 六八年五月には、佐世保に寄港した原潜が放射能漏れ事故を起こして大問題となり、日本政府が同年九月、放射能測定の「大綱」を決定。さらに七四年一月には日本共産党の不破哲三書記局長(当時)が国会で、政府による測定結果のでっちあげを明らかにし、日本への原潜寄港が四カ月中断しました。同六月に「大綱」を改定せざるをえなくなった経緯もあります。

 しかし、米軍が事前通報をしないまま寄港するようになれば、測定そのものができなくなってしまいます。

 米原潜の日本寄港は六四年の初寄港以来激増し、昨年は十三隻のべ五十一回にものぼっており、常態化しています。

 九七年の日米軍事協力の指針(ガイドライン)の改定以来、米軍艦船の日本の民間港への寄港も増えています。非核証明を提出しなければ入港を認めないという非核「神戸方式」にたいして、米政府は廃止をあからさまに要求しています。

 

 今回の事件をはじめ、米側がとってきた一連の傍若無人の態度をみると、日米間の合意を形がい化させ、米艦船の日本寄港をいっそう自由勝手におこなおうという意図さえうかがえます。


国との信頼関係根底から揺らぐ

佐世保市長コメント

 長崎県佐世保市の光武顕市長は二日、「米国原子力潜水艦『シカゴ』の無通報入港について」とするコメントを文書で発表しました。要旨次のとおりです。

 この入港は、入港24時間前通報の遵守はおろか、入港の通報そのものも行われないという、昭和39年に米国原子力潜水艦が入港をはじめて以来、初めての事態であり、佐世保市長として誠に重大かつ危惧すべき事件と認識しており、大きな憤りを感じている。

 本年2月26日には、「えひめ丸」の事故に関し、日本国政府としても米国政府により一層の対処及び真相究明を求めるとともに、入港24時間前通報の遵守についても国に強く求めてきたばかりである。

 今回の事態は、地元自治体のこの要請を完全に無視しており、私共の米軍との友好関係はもとより、国との信頼関係も根底から大きく揺るがすものであり、今後、基地を抱える地元市長として、国防ひいては日米安全保障体制についても市民に理解を求めることが非常に困難になると危惧しているところである。

 このことに関し、国に対しては原因の究明を詳細に行い、責任ある立場の者が本市に対し納得の行く説明をするよう現在求めているところである。

 

最近の米原潜出入港24時間前通報ルールの主な違反事例     

〈1997年〉

〈1998年〉

〈1999年〉

〈2000年〉

〈2001年〉

 (注1)●は、入港の通報遅れ

 (注2)米原潜の出港についても、「慣例」として24時間前に通報することになっている。


米原潜シカゴの佐世保港無通報入港の経緯

4月1日午前10時22分

 外務省が佐世保市東京事務所に(1)米原潜シカゴが2日午前11時から正午ごろまで佐世保港外に沖合停泊する(参考情報)(2)米原潜サンタフェが2日、赤崎岸壁に接岸すると連絡

同日午後5時40分

 佐世保市環境保全課が同市基地対策課に「米海軍佐世保基地から佐世保海上保安部経由で、米原潜シカゴが2日午前10時30分から11時30分まで、港内に停泊するとの連絡があったが、本当か外務省に確認してほしい」と要請

同日午後5時50分

 同市基地対策課が、外務省に米原潜シカゴの港内停泊の有無について問い合わせ

同日午後7時43分

 外務省が同市基地対策課に「在日米海軍に確認したが、港内に入るとは聞いていない」と回答

2日午前9時30分

 同市基地対策課に外務省から「在日米海軍に確認したところ、米原潜シカゴは入港しないことを最終確認した」との連絡が入る

同日午前10時46分

 米原潜シカゴが港内に停泊

同日午前10時50分

 同市環境保全課に同市基地対策課職員から米原潜シカゴの入港を現場で確認したとの電話が入る

同日午前11時5分

 原潜シカゴが出港