命ある限り、二度と戦争で苦しむ時代がこないように語り続けています
冷たい被爆者行政を正すため、みなさんと力をあわせたいと思います

 日本共産党の参院比例候補の仁比そうへいさんは、西日本十七県の各地で、いろいろな人々と懇談し、交流を広げています。被爆者の下平作江さん(68)と、長崎市の平和公園で対談しました。

仁比 はじめまして。私の母は昭和十一年生まれ、下平さんとは一歳ちがいです。

下平
 そうですか。お母さんは、どちらのご出身で?

仁比 島原の出身です。母方の祖父が戦前、佐世保から満州に行き、母は九歳のとき北京で敗戦を迎え、妹をおんぶしながら島原に引き揚げてきました。通過する諫早も被爆者をはじめ地獄のような中で、「大陸も地獄だったけど、この日本もどうなるのか」という気持ちだったといいます。

下平
 そうですか、私も満州で生まれたんです。満州で父が亡くなり、引き揚げてきていました。そして、あの日を迎えたんです。十歳でした。

仁比 被爆者のみなさんの苦しみやねがいを受け継いでいきたいと思っています。きょうはぜひ、お聞かせ下さい。

下平 爆心地から八百メートルの油木町の防空壕の中で被爆しました。真っ黒な死体や、目が飛び出たり、手足や体がちぎれ、内臓が流れ出している姿を無数に見て、あたりはなんともいえない叫び声でした。そういう中で助かったことが申し訳ないという思い、それにやっと助かったのに、食べるものもない。人間らしく死ぬことも生きることもできない。あの日のこと、それからの苦しみ、いまも夢に見ます。母も兄も姉二人も亡くなり、生き残った妹まで被爆から十年後にみずから命を絶ってしまいました。

仁比 ほんとうに核兵器というのは人類に対する犯罪ですね。

下平 悪魔の兵器ですよ。核兵器のない世の中をつくることが、私たちが生きるあかしだと思うんです。被爆者が亡くなった後、原爆の被害のほんとうの姿が忘れ去られ、核兵器が使われることがあってはならないんです。それを若い人に伝えたいんです。

仁比 若い人も「ぼくたちが直接受け継ぐことのできる最後の世代だ」「だからこそその責任を果たしていきたい」と受け止め、運動を広げていますね。

下平 うれしいですね。私たちも語れるのは、もう最後ですから。命がある限り、二度と戦争で苦しむ時代がこないように、語り続けているんです。私は、9・11テロ後のニューヨークにも行きましたが、ブッシュ大統領がテロの犠牲を利用して戦争する姿は、愛国心で戦争に突き進んだ戦前の日本と同じやり方です。絶対に繰り返してもらいたくありません。

仁比 貿易センタービルで最後まで車いすの友人を見捨てなかった弟さんを亡くされたリタ・ラサルさんが来日されたとき、ブッシュ大統領が弟を英雄だとたたえ、アフガンに戦争を仕掛ける材料にしたのを絶対に許せないと憤りを語っていました。人間が人間らしく生きていくねがいは共通ですね。

下平 ほんとうに共通の思いです。遺族の気持ちというのは。私はいまでも、原爆が落とされた後、「母ちゃん」といいながら、お骨を拾い集めた十歳のときの子ども心、その苦しさは消えません。

仁比 被爆の実相をなんとしても伝えようと、傷つけられた心身をふるいたたせて、原爆症認定の集団訴訟に立ち上がられた決意に、心から感動しています。なのに、東京地裁で勝訴した東さんの裁判で、国は控訴しました。絶対に許せません。

下平 国は一人三分しか審査しないで申請を却下するんです。なぜ認定されるべきか詳しく書いた医師の診断書も、読みもしない。

仁比 被爆者援護ではなく、切り捨てですね。私も、冷たい被爆者行政を正すため、みなさんと力をあわせたいと思います。

下平 私はドイツやイギリスにいったとき、「憲法九条は日本の持っている宝物。この宝物を大切にしていきたい」と話したら、「ぜひ輸出してくれ」「世界中が持っていたら、戦争は起こらない」と言われました。被爆の語り部として、修学旅行生たちに語るときに、そのことも話すんです。それが一人一人に浸透していったら、どんなにすばらしい世の中になるでしょう。

仁比 あの敗戦の後、私たち一人ひとりが、自分の思いとして示したのが憲法九条であり、生存権や基本的人権を保障した中身です。

下平 あかしですよね。憲法をしっかり次世代に守ってほしい。一人ではできないが、一人でも始めないといけない。仁比さんもがんばってくださいね。

仁比 きょううかがった話をしっかり受けとめてがんばります。お体を大切にして、またぜひお話を聞かせてください。
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 しもひら・さくえ 満州(現中国東北部)で生まれ、五歳で長崎市へ。十歳のとき被爆し、母、姉、兄を亡くす。一九八三年から語り部として活動。長崎原爆遺族会会長。
 にひ・そうへい 北九州市生まれ。京都大学卒。九四年弁護士登録。北九州第一法律事務所に所属。市民オンブズマン北九州の前事務局長。
仁比さんと被爆者の下平作江さんが長崎市の平和公園で対談
「しんぶん赤旗」2004/4/28