2001年4月27日、諌早湾干拓・有明海問題で3回目の質問主意書を提出しました。
有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策に関する質問主意書
                             衆議院議員 小沢 和秋                                        赤嶺 政賢
 
 有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第三者委員会)は、三月二十七日に諫早湾干拓の「潮受け堤防の水門をあけて調査」を提言したが、農水省は水門を開放し調整池に海水を入れる時期を明らかにしなかった。それどころか農水省は、四月十七日の同委員会で「干拓地の排水門を閉めたままで行う現状把握は、少なくとも四季を通じた一年間が必要」と提案し、第三者委員会は漁民代表等の委員の猛烈な反発がある中、これを認めた。これは水門を開放し調整池に海水を入れるまで一年以上かかるということである。関係漁民の間には「今年のノリ作付はできないのではないか」という不安が広がっていたが、水門開放の時期が来春以降に先のばしになったことで、改めて大きな失望と怒りがわき起こっている。 
 有明海はかつて「宝の海」と呼ばれ、全国有数の漁獲量を誇ってきた。それが一九九〇年の諫早湾干拓潮受け堤防工事着工後、一九九九年までの間に年間漁業生産量は約八万七千トンから約二万八千トンに激減し、
さらに一九九七年の堤防閉め切り後、わずか四年で養殖ノリの生産量も約四十四億枚から約二十一億枚へと激減、今や「死の海」になろうとしている。沿岸漁民が「宝の海を返せ」と立ち上がっているのは当然である。小沢は昨年二回にわたって質問主意書を提出し、有明海の漁獲量の推移についてたずねたが、政府は「さしたる変化はない」と、この重大な事態を認めようとしなかった。こういう干拓事業を強引に押し進める政府の姿勢こそが、有明海を瀕死の状態に追い込み、沿岸漁民はもちろん関連産業に従事する人たちまでを苦境に立たせていることは明らかである。
 よって、次のとおり質問する。いずれも改めて調査する必要がない問題と思われるので、国会法を遵守し七日以内に答弁されたい。
(一)「四季を通じた一年間の調査」というが、干拓事業をあくまで推進するために持ち出されたものとしか考えられない。調整池の中にはこの四年間海水を入れておらず、それがどれほど深刻な水質悪化を引き起こしているかは現状を調査すれば十分である。いったい今から何を一年かけて調査し検討するのか。一日も早くヘドロを巻き上げないような方法で水門を開放し、湾内に海水を入れる調査に着手すべきと考えるが、なぜそれができないのか。
(二)二月二十八日の予算委員会での小沢の質問に対し、農水大臣は「もし水門を開けるとなれば梅雨前」と早期開放を示唆し、その後も「第三者委員会の委員が一人でも水門を開けると言えば開けざるをえない」とまで発言し、漁民に期待を抱かせた。しかし、第三者委員会では数名の委員がただちに水門を開放するよう要求したが、これに応じなかった。その後は「排水門を開ける前の調査をやらなければならないし、開門前の調査がどのくらいかかるかは技術屋じゃないからわからない」と態度を後退させ、ついに今回、水門開放を一年後に先送りするに至った。こういう当初と全くかけ離れた大臣と農水省の無責任な態度に漁民が反発するのは当然である。なぜこのようにくるくると態度を変えたのか。納得できる説明をされたい。
(三)農水省は第三者委員会で、水門開放に伴う被害が出ないような対策をとることが実施困難として、「開門に当たっては調整池水位をマイナス一メートル以下に保ち、短期間でできる範囲で海水を出入りさせる」と提案した。これは第三者委員会が提言した「できるだけ大量の海水を出入りさせ、数年間にわたり連続的に開門して調査する」ことを完全に否定するものではないか。また、マイナス一メートル以下に水位を保てば海水の流入量も少ないし、しかも短期であれば、「水門を開放しても有明海全域の水質にさしたる変化はなかった」という結論になってしまうことは明らかではないか。
(四)調整池水位をマイナス一メートルに保てば、干拓工事継続が可能になる。農水省はいったん中断していた干拓工事をすでに部分的に再開しており、近く内部堤防前面を除き工事をほぼ全面再開しようと画策している。「堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい」という第三者委員会の提言を逆手にとったこういう態度に漁民が納得しないのは当然である。農水省はあくまで工事を続行することに固執して、水門開放が困難だと主張しているのではないか。まじめに有明海異変の原因究明を進めようというのであれば、少なくとも今後の干拓工事見直しなどに支障がないよう、工事を全面的に止めるべきではないか。
(五)一九九三年に九州農政局は、干拓事業が諫早湾内のタイラギ漁場に与える影響を調査し、タイラギ不 漁の原因と対策を検討するため「漁場調査委員会」を設置した。しかし、それから八年たつのに一九九七年以来会議も開かれていない。早急な解明が求められていたにもかかわらず、漁民には今年三月中に出すと約束していた調査報告もいまだに出していない。この委員会がどのように議論し、今日に至っているのか。詳細にその経過と、今日に至っても結論を出しえない理由を明らかにされたい。今回の第三者委員会が、その二の舞にならぬ保証があるか。今後の調査検討の見通しを示されたい。
(六)有明海は大きな干満差と速い潮流があるため海水が攪拌され、これまで富栄養化しながらも潮受け堤防閉め切り前までは大きな赤潮被害は発生しなかった。月の引力による潮汐振動と有明海独自の固有振動との共振によって、大きな干満差と速い潮流がもたらされていたが、干拓による急激な地形変化のため有明海の共振がなくなり、潮位と潮流が変化したと多くの研究者が指摘している。干拓工事が原因で共振がなくなり潮位と潮流が変化し、赤潮多発・漁獲量激減・ノリ不作が起こったと思うが、国はどう考えるか。
(七)漁獲量の激減やノリの不作を招いたのは、そもそも干拓事業のアセスメントの際に、農水省が諫早湾外に与える影響はわずかと結論づけ、強引に事業を始めたことによる。諫早湾干拓事業の前にあった「南総計画」に際し、佐賀県が詳細な科学的データを使って独自に行ったアセスメントは、諫早湾外の漁業資源に甚大な影響を与えること、潮の流速と栄養塩濃度低下によるノリの生産低下の懸念があるという結果を出している。これは重要な指摘である。諫早湾の閉め切り面積で見ると諫早干拓は南総計画の約三分の一だが、湾奥の広大な干潟を消滅させた点は全く同じである。十分な調査もせず、干拓の影響はわずかと決めつけた農水省は、厳しく反省すべきではないか。諫早干潟は人体にたとえれば有明海全体の浄化機能をもつ腎臓と、稚仔魚を育成する子宮のような機能をあわせ持っていた。干拓工事はこれらの機能を二つとも破壊したのではないか。
(八)国の発表によっても諫早湾干拓の費用対効果は、一・〇一、あとわずか工事費が増えただけでこの事業は実施要件を満たさないことになる。最近「市民版」の事業再評価が諫早干潟緊急救済東京事務所等から発表されたが、ここでは費用対効果はどんなに多く見積もっても〇・三にしかならないとされている。
水産業不振や人口三十万人の浄化能力を持つ干潟の消失など、貨幣評価可能な損失を費用として算入すべきであり、誰が考えても現在では実質的に一・〇をはるかに切っていることは明らかである。今年は国の事業再評価が行われるが、今や再評価を行うまでもなく、この事業はすでにその意義を失っているのではないか。国が持っている基礎データを明らかにした上で、現時点での費用対効果の数字と論拠を詳細に答えられたい。
(九)政府発表の一・〇一の費用対効果の内訳を見ると、農業外効果が八十%以上を占め、しかも国土造成効果という正体不明なものまで効果に入れている。これは効果の水増しではないか。農業外効果が五十%を超えること自体、土地改良法の趣旨に反し違法ではないか。また、農水省が従来とってきた見解、すなわち農業外効果が五十%を超える事業については「土地改良事業として実施するのではなく、他事業と協同で行うか、又は事業計画を改めることが必要である」とする見解にも反するのではないか。さらに干拓の目的が防災工事中心というなら、なぜ国土交通省が事業主体にならないのか。
(十)造成される農地での入植者説明会が今年初めに開かれる予定だったが、無期延期となっている。開催の目途は立っていないというが、対応に追われて手が回らないのではなく、入植農家確保の見通しがないので先送りしているのではないか。なぜ先送りしているのか明らかにされたい。また、現在までに入植の意思が明確な農家が何戸あり、何ヘクタールの分譲を求め、どのような営農計画を持っているのか具体的に明らかにされたい。
(十一)国は一九八六年に、諫早市内の三十一町を「潮受け堤防を造らなければ高潮被害を受ける恐れがある」として被害地域に想定し、干拓の防災効果の根拠にしてきた。国は翌年この想定地域から八町を除外したが、正式に事業計画から削除したのは一九九九年になってからである。長崎県は初めからこの事実を知っていながら公表せず、諫早市にも防潮効果があるかのごとく言い続けてきた。国はなぜ八町を高潮被害地域から除外しながら、そのことを十二年間も諫早市に明らかにしなかったのか。理由と経過を明らかにされたい。
(十二)一部に防災を理由に潮受け堤防の水門を開放することに反対し、工事の続行を要求する声がある。しかし、諫早市街地の洪水対策についてはこの堤防は何の効果もないのではないか。本年三月の長崎県議会での日本共産党中田晋介議員の質問に対し、県農林部の諫早湾干拓担当参事監は「干拓の効果としては、中心部の対策とかの効果としては認めません。都市部の上の方の洪水対策への効果としては見ておりません」と答弁し、洪水対策として干拓が機能しないことを長崎県当局自身も認めた。国はどう考えるか。
(十三)干拓地周辺と同じような低平地を抱える佐賀県では、干拓堤防の強化やかさ上げ、百カ所を超える揚排水ポンプを整備することにより高潮及び内水浸水被害に備え、かつてはひどかった浸水被害を大きく減らしている実績がある。諫早でも海岸に近い低平地の浸水対策については、旧海岸堤防の補強、大型ポンプ増設、水路や水門の整備などを急ぐことこそ求められているのではないか。
(十四)有明海沿岸四県のノリ生産額は昨年十一月から今年三月までの五カ月間で、前年同期比で約百五十四億円の減収となっている。国は緊急対策として融資枠の拡大等の金融支援を打ち出したが、ノリ漁民はノリ生産に関わる機械器具等の購入のためにすでに多額の借金を抱えている。漁場回復の目途が立っていない状態で、これ以上の借金をすることはできないというのが、多数の漁民の声である。今回の養殖ノリ不作は、明らかに政府の諫早湾干拓事業強行の結果として引き起こされたものであり、漁民に対し政府が全面的に補償を行う責任があるのではないか。
(十五)農水大臣は第三者委員会で、「水門の開放が来春以降になり、またノリが不作の事態になった場合に備え、経営安定のための対応を図りたい」と発言した。具体的にどういうことを検討しているのか。
(十六)九州農政局と、有明海沿岸三県(福岡・佐賀・熊本)漁連及び長崎県の漁業権者会との間で一九八七年に、干拓事業により「予測しえなかった新たな被害又は支障が生じた場合には、誠意をもって協議し、解決するよう努める」という内容の確認書を取り交わしている。干拓事業の過程で、とりわけ潮受け堤防工事着工直後から漁獲量が激減し、堤防閉め切り以降ノリ不作が起こっているのだから、確認書にもとづき関係漁連等と対策、補償等について協議を行うのが当然ではないか。
(十七)干拓工事中断によって仕事と収入を失っている人は、その多くが干拓によって漁業を続けることができず工事に就労していた元漁民であり、度重なる失業によって生活はきわめて深刻な打撃を受けている。
この人々に政府の責任で、最優先で就労の場をつくるべきではないか。
(十八)所得の場を失った漁民に対し、諫早湾干潟再生や有明海の水産業振興のために必要な公共事業など、就労の場を設けることが緊急の課題となっている。国は関係四県の労働局と連絡をとって検討するというが、早急に結論を出さなければならない。具体的にどのように進め、現在の状況はどうなっているのか。
また、養殖ノリ漁民だけでなく、干拓工事で大打撃を受けているすべての漁民も、さらに漁業関連の産業に従事している地域中小業者も緊急援助の対象とするのが当然ではないか。
右、質問する。