小沢議員に政府答弁書
“干拓で変化なし”と強弁、養殖ノリの不作にふれず

            2001年1月25日 「しんぶん赤旗」
 昨年十一月三十日に小沢和秋衆院議員が提出した諌早湾干拓中止を求める再質問主意書に対し、一月二十三日に政府答弁書が届けられました。
 小沢議員は質問主意書で、諌早湾干拓堤防閉め切り後に有明海で起きている漁獲物の著しい減少、環境変化の影響を受けたすべての関係者の意見を聞く必要性、造成される農地での営農の見通しなどについて政府の見解をただし、干拓事業の中止を求めていました。
 答弁書では、タイラギ・アゲマキ・アサリなどの水揚げの劇的な減少を統計値で示しながらも、「干拓堤防閉め切り後、著しい変化は見られない」と矛盾した答弁になっています。また、昨年末からプランクトンの異常発生によって起こっている養殖ノリの記録的不作については、一言もふれられていません。
 ノリの不作で、沿岸四県の漁民が干拓堤防の水門の開放を求めている問題について、「漁場を含めた周辺環境にも十分配慮し」としつつも、「水門を開放することは考えていない」と、干拓事業推進の態度を変えていません。
衆議院議員小沢和秋君提出諌早湾干拓水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策およぴ農地造成に関する質問に対する答弁書
内閣衆質一五〇第六二号
平成十三年一月二十三日
内閣総理大臣 森喜朗
衆議員議長 綿 貫 民 輔 殿

一について
 農林水産省においては、統計法(昭和二十二年法律約十八号)に基づく指定統計調査として海面漁業生産統計調査を実施しているが、これは、漁業協同組合別でなく、漁業に係る社会経済活動の共通性に基づいて農林水産大臣が設定した漁業地区(以下単に「漁業地区」という)別に調査を実施しているところであり、お尋ねの趣旨の過去十五年間の有明海の県別及び漁業地区別の主要十五種の漁獲量の推移は、別表一のとおりである。なお、漁業地区と漁業協同組合との対応については、別表二のとおりである。
 過去十五年間の有明海の漁獲量の推移については、魚種や地域により増城の傾向に違いはあるものの、昭和六十年以降の期間でとらえた場合、総じて抵少傾向にあると見られるが、平成九年四月の潮受堤防締め切りの前後でその傾向に著しい変化は見られない。

二について
 農林水産省九州農政局においては、国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)の実施に当たり、環境監視が適切かつ円滑に実施されるよう長崎県に設置された学織経験者で構成される諫早湾干拓地域環境調査委員会の助言、指導を踏まえつつ、潮受堤防の内外で環境モニタリングを定期的に実施している。これまでの結果によると、潮受堤防の締切りの前後で、周辺海域の水質、底質等において明確な変化が認められないことから、潮受堤防の締切りが漁業に対して影響を及ぼしているとは判断できない。このため、改めて漁業補償を行う考えはないが、引き続き、環境モニタリング等を実施することにより、水質、底質等の状況を注意深く監視するとともに、関係漁業者に対してその結果を説明してまいりたい。

三について
 本事業を含めた国営土地改良事業の再評価は、事業の長期性にかんがみ、その効率的な執行及び透明性を確保する観点から実施しているものであり、その結果を踏まえ、必要に応じて土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)に基づく土地改良事業計画の変更を行うこととしている。したがって、国営土地改良事業の再評価の際、意見を聴取すべき関係団体の範囲については、同法において国営土地改良事業の土地改良事業計画の変更の際に農林水産大臣が直接的又は間接的に協議しなければならない相手方を軌案して運用することとしているものであり、同法に規定されていない者から意見を聴取することは考えていない。

四について
 淡水化が進行している調整池について、そこから排水される淡水と諫早湾内の海水とのより速やかな混和が図られるよう一回当たりの俳水量を減少させるために、諫早湾周辺の漁業協同組合等からの変望も踏まえ、試験的に、小潮のため排水できない日を除く毎日、潮受堤防排水門からの排水を行っている。
 なお、二についてで述べたとおり、潮受堤防を締め切り、調整池からの排水を開始した後の周辺海域の水質、底質等は、その前のそれらと明確な差異が認められない。

五について
 平成十一年七月二十三日の大雨は、最大時間雨量が百一ミリメートル(気象庁地域気象観測所諫早観測所)という記録的なものであり、この大雨により、調整他の背後地の一部の家屋で浸水被害が生じたが、背後地において浸水被害が生じるか否かは、降雨の強度及び分布、地域における排水能力、排水先の河川等の水位変化等により総合的に決まるものである。同日の大雨に関しては、調整池の水位を低く保った結果、河川、排水路等から調整池への排水が速やかに行われ、調盤池の機能は適正に発揮されたと考えている。なお、この大雨による死者一名の人的被嘗は、調整池に流下する河川の流域外の地点、すなわち本事業により発揮される防災機能の対象区域外の地点で発生したものである。
 また、平成十一年七月二十三日の大雨以降、建設省(平成十三年一月六日以降は国土交通省)においては、既設堤防側の背後地においてクリ−ク拡張工事は行っておらず、本明川の河川区域において実施しているしゅんせつ工事、ダム建設等の河川事業については、本明川水系工事実施基本計画(平成十二年十二月十九日以降は本明川水系河川整備基本方針)に基づき、昭和四十四年度から計画的に実施しているものである。

六について
 干拓地のかんがい用水については、全量を淡水化された調整池に依存することとしている。
 調整池は、現在工事中であるが、工事完了後の水質の汚濁源については、内部堤防の完成による干陸部や底泥からの溶出等の減少、調整池の水際での水生根拠の繁茂等による巻き上げの減少のほか、調整池流域における生活排水処理施設の整備等水質保全対策の一層の進ちょくによる流入の減少が見込まれることから、工事完了後において、調整池の水をかんがい用水として利用できると考えている。

七について
 調整池は、現在淡水化が進行しており、工事完了後は、中央干拓地は淡水化された調整池に囲まれることとなることから、干拓地地下に海水が浸透することはない。また、干陸した中央干拓地の土壌中の塩分を除去するため、小江干拓地内の試験ほ場に設置したかんがい施設及び暗きょ排水施設と同等の能力を有する施設を設置するとともに、土壌改良も同様に行い、塩害の発生防止に努めることとしている。

八について
 農林水産省が公表している「耕地及び作付面積統計」によれば、平成十一年の長崎県の畑地面積は、宅地転用や耕作放棄等の増加により、平成元年の約三万五千九百ヘクタールから約七千ヘクタール減少し、約二万八千九百ヘクタールとなっており、長崎県によれば、畑地面積は今後とも減少傾向が続くと見込まれている。
 こうした状況の中で、国としては、中山間地域等直接支払制度の実施等により耕作放棄の抑制や耕作作放棄地の再活用を一層進めることとしているが、平坦な農地が乏しい長崎県において生産性の高い農業を実現するためには、大規模で平坦な優良農地を造成することも重要なことであると考えている。

九について
 本事業の営農計画等についての意見を集約するために長崎県に設置された諫早湾干拓営農構想検討委員会においては、長崎県の農業振興計画や県内の労働力、労働時間、農産物価格、機械・施設装備等を示した「長崎県農林業基準技術」を基に諫早干拓営農モデルを試算しており、このうち、御指摘の「バレイショ・タマネギ・ニンジン」の組み合わせによるモデルの経営内容は、別表三のとおりである。
 このモデルは、長崎県の大規模経営に対応した営農の技術の実態に基づくものであり、干拓地における営農は十分成り立つものと考えている。
 なお、長崎県においては、本事業により造成される干拓地で早期に安定的な営農が可能となるよう支援策の検討を進めているところである。

十について
 農林水産省九州農政局においては、平成九年度から三年間にわたって諫早湾周辺地域の農家及び九州各県の農業生産法人に対し、干拓地での営農の意向調査を行ったが、その結果を踏まえ、平成十一年十二月に国営諫早湾土地改良事業変更計画を決定したところであり、その中では、干拓地に入植九十五戸、増反 百三十三戸の合計二百二十八戸で営農することを想定している。
 なお、この意向調査結果では、営農意欲の高い畑作や高産の農家等から干拓地の農地面積を上回る農地利用の要望があるほか、関係行政機関へも直接干拓地利用の希望が寄せられていることから、干拓地は農地として有効に利用されるものと考えている。

十一について
 本事業は、平坦な農地が乏しい長崎県において、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、高潮、洪水、常時の排水不良等に対する防災機能の強化を図るものであり、地元から事業の促進を強く求められていることから、本事業を中止し、水門を解放することは考えていない。今後とも漁場を含めた周辺環境にも十分配慮しつつ、本事業の着実な推進に努めることとしている。
諌早湾干拓問題での小沢質問主意書に政府が無責任答弁書
 
 「しんぶん赤旗」が「“干拓で変化なし”と強弁、養殖ノリの不作にふれず」(2001年1月25日、記事全文は答弁書の下)と報じた、政府答弁書の全文を紹介します。